国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉
教授。吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営
人類学。
日本では丙午(ひのえうま)の年に生まれた女性は気性が激し
く亭主を尻に敷くといわれ、この年生まれの女の子を嫁にむかえ
ることを忌避する風習がありました。実際、前回の丙午にあたっ
た1966(昭和41)年には、出生数は例年に比べるとずっとすくなか
ったのです。これは五行説にもとづくもので、丙も火性、午も火
性と、火が重なり、この年は火災が多いとか、女性は気が強いと
かの「迷信」のもとになっていました。
たほう中国では、春節(旧正月)が来る前に立春となる
年に生まれた女性は寡婦になると言われています。無春
年は寡婦年という訳です。立春は二十四節気のひとつで、
毎年2月4日頃にやってきます。今年(癸巳)の場合、旧暦
の春節は2月10日にきます。そして来年の春節は1月31日
となりますので、旧暦の癸巳年には立春が無いことにな
ります。
立春と春節、それに春分と春のつく暦日が三つあります。
混同しないようにしないといけません。立春と春分は太陽
の1年周期を24等分した二十四節気にあたります。つまり
太陽暦の暦日です。それに対し春節は旧暦の1月朔日
(ついたち)、すなわち元日のことです。太陰暦の朔日は
朔(さく)の日で、月の出ない真っ暗な日なのです。漢代
以降、中国の暦法では、雨水(立春の次の二十四節気)を
含む月を正月としていますが、毎年日付が変わるので太陽
暦(グレゴリオ暦)に比べると複雑です。
いずれにしろ、中国では立春の無い年に生まれた女の子
はアンラッキーとかんがえられてきました。しかし、今日
ではラッキーなことに、そうした観念は薄れつつあるよう
です。とはいえ、気にする人たちもいて、結婚式を前倒し
にしたり、延ばしたりしているようです。
旧暦を今でも併
用している韓国では、そうした「俗説」は一部の巫俗をの
ぞき、ほとんど流布していないようです。ただし、旧暦の
閏月は鬼神も知らず、先祖も戻らないという理由で、結婚
式を避けるそうです。また、旧暦の如月(きさらぎ)、つ
まり2月は食べ物も金もなく、農事もはじまるので結婚式に
はふさわしくないとされているようです。
いっぽう日本では、次の丙午にあたる2026年にはどうなって
いるでしょうか。人道にもとることがないよう、ねがいたいも
のです。