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今回は山の日のルーツについて学んでみましょう! こよみの博士ひろちか先生
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押し合いへし合いの年中行事

メダル・ラッシュに沸いた平昌オリンピックが終盤を迎えるころから、男女のカーリング競技が熱気を帯びてきました。とりわけ、女子のカーリング・チームが準決勝に残り、韓国に敗れたものの、翌日、英国チームにややラッキーな逆転勝利を挙げ、銅メダルに輝いたからです。オリンピックのカーリングでは初めての快挙でした。そしてLS北見という女子チームが日本代表として戦いましたので、北海道の北見市にもマスコミの取材が押しかけました。

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押し合いへし合いの年中行事

そのなかで映し出された映像のなかにカレンダーが登場しました。スキップとよばれるチームの司令塔であり、最後の2投を投じる藤澤五月選手の勤務先が紹介され、彼女の机の上にあった卓上カレンダーが大写しとなったのです。日表の23日のところにはSemi Final(準決勝)とあり、24日の欄にはBronze(銅)、25日にはGoldと記入されていました。金をめざしていたことがよくわかります。あとでYouTubeをじっくり見てみると、東京入り、韓国入り、平昌五輪開会式、平昌五輪カーリング開始といった日程も書き込まれていました。

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押し合いへし合いの年中行事

LS北見は北見市に拠点を置くチームですが、メンバーは「カーリング王国」とか「カーリングの聖地」という異名をもつ旧常呂町の出身者で占められています。創立者で主将をつとめるのは「まりりん」の愛称で人気のある本橋麻里選手です。LSとはLocoSolare(ロコ・ソラーレ)の頭文字をとったもので、Locoとは「常呂っ子」とLocal(地元の)の掛け言葉です。ソラーレはイタリア語で太陽を意味します。したがってロコ・ソラーレとは「太陽の(地元)常呂っ子」となります。

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エエヨウエエヨウ

旧常呂町は実はわたしの修士論文の調査地でした。1970年から北海道開拓民の宗教に関する調査をおこなったところなのです。そのころ、カーリングは影も形もありませんでした。オホーツク海の流氷とサロマ湖に沈む太陽が観光の目玉でした。しかし、考古学的には海岸沿いに無数の遺跡が眠り、言語学・民族学的には樺太アイヌの引揚者が住んでいて、学術的には注目に値する町でした。東京大学文学部の考古学研究室は毎年夏になると、学生たちを動員して発掘調査を実施していました。そうした経緯から、文学部の施設が建てられ、教官も常駐するようになったのです。宗教学研究室も神社や寺院の調査に着手しました。わたしは1972年の冬から春にかけて文学部の常呂宿舎に滞在し、「北海道常呂町における寺院の成立と展開」という修士論文をまとめました。

エエヨウエエヨウ

修論のための長期調査に出かける前、指導教官の柳川啓一先生から言われたことのひとつは、冬から春にかけての季節の移り変わりをしっかり体験してこい、というものでした。まず気づいたことは、生まれ故郷の信州の雪と比べるとサラサラしていて、雪合戦も雪だるまもできないことでした。また、窓枠をビニールで覆い、隙間風が入らないようにしていること、ストーブを汗が出るほどガンガン焚き、囲炉裏やこたつを使わないことも信州とはちがっていました。傾斜のきついカラフルなトタン屋根も印象的でした。流氷の時期に飛来する白鳥もめずらしく、毛ガニはこのうえなく美味でした。雪が解け、春が近づくと心も浮き立ち、5月になると、内地では開花時期が異なるサクラやミズバショウなど、さまざまな花が一斉に咲きほこることもわかりました。

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苗場山

2016年の秋、札幌での国際学会に出たあと、女満別に飛び、久しぶりに常呂町を訪ねました。そのときはじめてカーリング場の内部も見学しました。6レーンもある立派な施設で、2階には世界女子カーリング選手権(2016)で準優勝をとげたLS北見のパネル写真が飾ってありました。ストーンに改造されたアルミの鍋やカーリング・ブラシに使われた箒(ほうき)なども展示されていました。これから、平昌オリンピック関連の展示資料が追加されることでしょう。そのなかに、5月生まれの藤澤五月選手が書き込んだ冒頭の卓上カレンダーも加えられるのでしょうか。楽しみではあります。

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日本カレンダー暦文化振興協会 理事長

中牧 弘允

国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。
吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営人類学。

中牧弘允 Webサイト
吹田市立博物館Webサイト

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