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今回は山の日のルーツについて学んでみましょう! こよみの博士ひろちか先生
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エイプリルフールの習慣といたずら

エイプリルフールは罪のない嘘をついてもよい日とされ、ちょっぴり社会を混乱させても、この日だけは大目に見られます。今年は62年ぶりにイースターとも重なり、また新年度のスタートという点でも多義的な意味をもっていました。くわえて、ヨーロッパ人にとっては、冬から春への季節の境を画する伝統的な日でもありました。イギリスではエイプリルフールは深夜の12時から正午までと決まっていて、「万人道化節」あるいは「万愚節」(All Fool’s Day)とよばれています。直訳の「4月ばか」をつかうこともあります。

イギリスでは『イブの母親の生涯』というようなありえない題名の本を買ってこいと指示される、無駄な使いをさせられることが定番でした。フランスではこの日を「4月の魚」(Poisson d’avril)と称するように、紙に書いた魚の絵をこっそり背中に張り付ける風習がありました。いずれも子どもたちが主役のいたずらになっていますが、本来は大人の道化が中心的役割を演じていました。フールとは道化師を指す言葉なのです。

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悪ふざけによる社会秩序の逆転

道化が王になる。もちろん偽(にせ)の王さまですが、王の対極にある身分の低い宮廷道化を一時的に王に仕立てあげるという悪ふざけの行事がルネッサンス期にはやりました。「愚者の饗宴」として知られるものですが、カトリック教会でも「阿呆の司教」を選び、身分の序列を逆転させて遊んでいたのです。時期はクリスマスから新年にかけての頃で、一時的に秩序を乱し、「ガス抜き」をおこなっていたと理解できます。移動祝日ではありますが、カーニバルの時にもしばしば偽王が登場します。リオでは黒人の偽王に戴冠し、かずかずの悪ふざけをくりひろげます。このように季節の変わり目や移動祝日に合わせて道化や被抑圧者を中心に社会的秩序の逆転がはかられ、一時的な混沌を生じさせ、それを回復する手立てが講じられたのです。イギリスの社会人類学者であるエドマンド・リーチはこうした現象を「役割転倒」と名づけました。

イラスト2
「役割転倒」とは

「役割転倒」は年中行事のなかに組み込まれると社会秩序を蘇らせる効用をもっていました。同時に、季節を一時的な混沌をはさんで推移させる機能も果たしていました。年末の「愚者の饗宴」は秋から冬への移行を、エイプリルフールは冬から春への切り替えをはかるものだと解釈することができます。

他方、イースターはキリストの復活を祝う行事ですが、リーチはイエスが荊(いばら)の王冠をかぶせられ、十字架上で偽王として死ぬことに注目しています。キリストの受難が道化の形ですすむことで、その復活が秩序の回復につながることを示唆しているようですが、それ以上に興味深いのは、ヨハネとイエスとの役割の交換です。

イラスト3
福音書におけるヨハネとイエスの役割交換

ヨハネとはヨルダン川で洗礼をほどこしていたバプテスマのヨハネのことです。リーチによる福音書(神話)の構造分析によると、ヨハネは母の胎内にある時から聖霊で満たされていて、荒野(自然)で活動し、市中(文化)の王宮で「王」として死にました。一方イエスは、市中に生まれ、ユダヤ人の「王」としての資格を付与されていましたが、ヨハネに洗礼を施されて初めて聖霊に満たされ、荒野にこもり、悪魔と出会い、市外で十字架にかけられ、3人の罪人のひとりとして死にました。神話の構造的対比では、ヨハネは荒野の預言者として出発し、「王」として殺されました。逆に、イエスは市中の「王」として生まれ、荒野の預言者として殺されたのです。

イースターの持つ意味

イースターはユダヤ教の過越しの祭りに範をとったものですが、リーチによれば、エジプト人による支配からのユダヤ人の解放と約束の地への脱出を祝うものです。これに対し、イースターは悩み多き日常生活からの解放と「天上の王国」という約束の地への脱出を祝う祭りです。つまり、永遠の生への逃走をことほぐ祝祭であると解釈されます。イースター・エッグはまさに生命の蘇りと永遠性を象徴する縁起物なのです。

ヨーロッパにおいて、冬から春への季節変化は混沌をはさんだ「死と再生」の物語でもあるのです。

イラスト4

【参考文献】
山口昌男『文化と両義性』岩波書店、1975年、42-45頁、87頁。

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日本カレンダー暦文化振興協会 理事長

中牧 弘允

国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。
吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営人類学。

中牧弘允 Webサイト
吹田市立博物館Webサイト

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