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今回は山の日のルーツについて学んでみましょう! こよみの博士ひろちか先生
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エイプリルフールの習慣といたずら

「春は曙」ではじまる『枕草子』。清少納言の筆になる宮中は後宮の記録です。記録とはいっても日記ではなく、歴史書でもありません。れっきとした文学作品ですが、『源氏物語』のような小説ではなく、あえて言えば後世の『徒然草』につづくところの随筆・随想といったジャンルに属しています。約300篇の文章から構成され、その一つひとつを章段と呼んでいます。

その出だしが「春は曙」の章段です。「夏は夜」、「秋は夕暮」、「冬はつとめて(早朝)」とつづき、春夏秋冬の魅力が述べられます。次の章段は「ころは、正月、三月、四月、五月、七、八、九月、十一、十二月、すべて、をりにつけつつ、一年ながら、をかし」とあり、以下、くわしく年中行事や人々の行動について「いとをかし」「いとあはれ」「わろき」などと評しながら書き連ねています。つまり、枕草子の冒頭をかざる二つの章段はこよみと深いつながりがあるのです。しかし、第三章段以降は、こよみとはあまり関係のない事柄がつづられています。とはいえ、年中行事に言及する個所もすくなからずあり、こよみと無縁というわけではありません。

イラスト1
悪ふざけによる社会秩序の逆転

まずは春からです。「春は、曙。やうやう白くなりゆく、山ぎはすこし明かりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる。」とあります。春の明け方、山際が白みかけ、雲が細くたなびく風情をよしとしています。「夏は、夜。月のころはさらなり。闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くも、をかし。雨など降るも、をかし。」とあって、月夜もよし、蛍の飛び交う闇夜も格別であると述べています。雨とは梅雨のことでしょうか。秋は夕暮れです。「夕日のさして、山の端(は)いと近うなりたるに、烏(からす)の、寝どころへ行くとて、三つ四つ二つなど、飛び急ぐさへ、あはれなり。」と烏を取り上げ、雁(かり)も小さく見えるのが「いとをかし」く、風の音、虫の音は言うまでもないと述べています。冬は早朝です。雪や霜はもとより、急いで火をおこし、炭をもって宮中を行き交うのも似つかわしく、昼になって白い灰になったのは「わろし」と断じています。

イラスト2
「役割転倒」とは

第2章段は時節に関する記述です。元日からはじまりますが、7日は若菜摘みで、今日の七草粥に連なっています。15日も粥を食べますが、粥の木を隠し持って、すきをうかがって男女を問わず誰彼となく不意打ちをする風習が面白おかしく描写されています。これが民間の小正月の民俗行事になると、木につく粥の状態からその年を占う手立てになったり、子どもたちが棒で新しく来たお嫁さんのお尻をたたき子宝にめぐまれるのを祈願する習慣になったりしています。除目(じもく)という官吏任命の日は当時の宮中がしのばれる儀式ですが、現代とはつながっていません。しかし、3月3日は桃の節句として連綿と続いています。4月の祭も葵祭で知られる京都の風物詩として持続しています。

イラスト3

第2章段はここでおわりますが、第36章段には5月5日の端午の節供や9月9日の菊の節供が取り上げられています。節供は5月が最高で「菖蒲(しょうぶ)、蓬(よもぎ)などのかほりあひたる、いみじうをかし」と強い香りを放つ風情がおもしろいと清少納言は述べています。また、85章段には、5月5日の「菖蒲(あやめ)の蔵人(くろうど)」が「なまめかしいもの」(優美なもの)のひとつとして列記されています。

イースターの持つ意味

『枕草子』は皇后やお妃の後宮を舞台にした記録です。清少納言は中宮定子の「女房」を呼ばれる女官でした。『枕草子』は清少納言個人の随筆というよりも、「後宮の文明の記録である」というのが現代訳を手がけた石田穣二氏の主張です。そうした観点からすれば、文明の基軸を担う暦の記録としても、あらためて見直す必要があるでしょう。

イラスト4

【参考文献】
石田穣二訳注『新版枕草子 付現代語訳』上巻、角川日本古典文庫、1979年。

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日本カレンダー暦文化振興協会 理事長

中牧 弘允

国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。
吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営人類学。

中牧弘允 Webサイト
吹田市立博物館Webサイト

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