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第30回『穀雨と蕨(わらび)梅雨―慈雨のあれこれ』
こよみの博士ひろちか先生
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穀雨は清明の次にくる二十四節気です。暦の上では、春(旧暦の1月から3月)の最後の節気です。清明で人や動物が動きはじめ、農作業もいよいよ本格化します。黄河中・下流域ではそのころタイミングよく恵みの雨が降ります。それを名づけて穀雨と称しました。百穀を潤す春雨です。

百穀とは穀物の総称です。五穀という言い方もあります。五穀豊穣といえば、穀物がすべて豊かに実ることを意味します。いっぽう、五穀断ち、十穀断ちという断食行があります。穀物を摂取せず、野菜や木の根で命をつなぐ修行です。逆に言うと、穀物はそれほど人類の食生活に不可欠であることを意味しています。五穀を具体的にさす場合には、コメ、ムギ、アワ、ヒエ、マメ、キビなどとなります。

五穀や十穀、百穀の成長にとって雨は欠かせません。穀雨のころは中原と称される黄河中流域では種まきの季節です。南北に長い日本でも、北海道や沖縄を除くと、やはり播種の時期です。桜の開花時でもあるので、種まき桜の異名をとる桜の古木が各地に存在します。
また、残雪の形を種まきの目安とするところもあります。福島の吾妻小富士(標高1,707m)の種まきウサギはその一例です。種まき桜や種まきウサギは自然暦とよばれ、自然の移り変わりを農作業の目安とする素朴な暦法の一種です。

ところで、春雨も長く続くと菜種梅雨とよばれます。菜の花が咲くのは3月下旬から4月にかけてのことです。また日本では筍梅雨という表現もあります。タケノコが旬の時期に降る5月の長雨のことをさします。

たほう、韓国最南端の済州島では、蕨(わらび)梅雨(ゴサリジャンマ)という言いまわしがあります。これは先般、同島にうかがったときに教示をうけました。4月の長雨のことで、そのころは蕨が最盛期を迎えているのです。穀物でも菜種でもなく、蕨であることが、いかにも済州島らしさをあらわしています。というのも、済州島は火山島なのでコメはあまり育たず、穀物といえばムギ、アワ、ヒエが中心で、それが主食となっていました。そのかわり、春の山野にはワラビが豊富に生え、それをつかった家庭料理や郷土料理が発達しました。

済州島名物のワラビスープはそのひとつです。ワラビを何度も煮込んでアクを抜くと、同時に繊維がくたくたにほどけて柔らかくなります。それに小麦粉、塩、胡椒をくわえ何時間もトロトロに煮込み、牛テールのスープとあわせると絶品になるそうです。ほかにもナムル(和え物)にしたり、炒め物にしたりするようです。ゴサリユッケジャン(ワラビを入れた牛肉スープ)という郷土料理をいちど食べてみたいものです。

さて、穀雨の次の節気は立夏です。立春から数えて6番目の節気です。ひとつの節気の期間は15日あまりですから、6を掛けて90日あまりとなります。その直前にやってくるのが日本でうまれた雑節の八十八夜です。立春から88日目の夜ということです。「♪夏も近づく八十八夜」の夏は立夏の夏であり、昼ではなくて夜であることに注意をはらう必要があります。
というのも、野にも山にも若葉が茂り、茶摘みがはじまると文部省唱歌では歌われますが、農家にとって八十八夜は要注意でした。なぜなら、遅霜にやられる最後の時期だったからです。2日もすれば立夏となるにもかかわらず、夜の霜に冷や冷やしていました。八十八夜にはそういう意味があるのです。

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日本カレンダー暦文化振興協会 理事長

中牧 弘允

国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。
吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営人類学。

中牧弘允 Webサイト
吹田市立博物館Webサイト