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十二支の申-猿文化の古今東西

今回は猿文化の古今東西について学んでみましょう! こよみの博士ひろちか先生
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サルは下北半島を北限とし、熱帯から温帯にかけて生息しています。しかし、ヨーロッパやアメリカには自然のなかで暮らすサルはいません。朝鮮半島も同様です。とはいえ、韓国や欧米でサルを知らない人はいないでしょう。ただ、今年が申年であることをわきまえている人はアメリカ人やヨーロッパ人には少ないかもしれません。

十二支では9番目の動物がサルですが、殷の時代にはすでに12種の動物が決まっていました。そこには龍のような架空の霊獣も含まれていますが、それ以外は身近な動物ばかりです。しかし、動物の種類に関しては、おもしろいことに中国以外の地域では若干のちがいがみられます。たとえば、中国では豚なのに、日本では猪になっています。牛は東南アジアに行くと水牛となります。ベトナムでは猫が兎の指定席に居座っています。またベトナムやタイでは羊の代わりに山羊がつかわれています。龍はイランでは鯨に、アラビア半島では鰐になったりします。

サルはどこでも猿ですが、思い浮かべる猿の種類は国によって異なります。そのことをよくあらわしているのが、三猿の置物や土産品です。見ざる、聞かざる、言わざるの三猿は日本にしかないと思われるかもしれません。どっこい、サルのいない韓国や欧米にも、あるいはオーストラリアではサルに代わってコアラの「三ざる」までもが分布しています。インドネシアではオランウータン、インドではハヌマーン・ラングール、そしてアフリカではヒヒの類(たぐい)が見ざる、聞かざる、言わざるの恰好をしています。そして欧米ではチンパンジーの人気が高く、尻尾の短いニホンザルは日本にかぎられています。

わたしのところに届いた今年の年賀状には三猿を絵柄としていたものが4、5枚ありました。そのうち2枚は見ざる、聞かざる、言わざるを逆にした「よく見ろ、よく聞け、よく言え」という逆さ三猿でした。いかにも現代風ですが、そのルーツは終戦直後にあります。民主的、文化的国家をめざすことが進駐軍のもとにあった敗戦国の課題でした。封建遺制の処世訓のような「見ざる、聞かざる、言わざる」は時に逆さ三猿に姿を変えて生き残ったのです。

三猿はカレンダーにも出没することがあります。浜松の日系ブラジル人が経営するお店では2004年の申年にmizaru、kikazaru、iwazaruの三猿をあしらったカレンダーが無料配布されました。しかもそこにはオーナーがかんがえた処世訓がポルトガル語で入っていました。O primeiro passo para a felicidade é aprender a rir de si mesmo.(幸せの第一歩は自分自身を笑うことを学ぶことである)とあって、いたく感銘しました。ソクラテスは「汝自身を知れ」と言ったのですが、この日系ブラジル人オーナーは「汝自身を笑え」とすすめていたからです。今年の申年にはどんなカレンダーをつくったのかお店に電話でうかがったところ、在日ブラジル人の人口が減ったので3年前に中止したとのことでした。

他方、国立民族学博物館が収蔵するオランダのカレンダーにも教訓をともなった三猿の図柄が存在します。そこにはWie lang zwijkt, wordt lang voor wijs gehouden. (沈黙の長い人は賢さを長く保ち続ける)とあります。つまり「沈黙は金」というわけです。しかもこの三猿は「見ろ、聞け、言うな」のタイプです。

フランスでは14世紀の説教や歌のなかで、「平安に暮らしたいなら、見て、聞いて、口を慎むように」という格言がひろまっていました。19世紀の末になると、ベルギー人のホイド・ヘゼーレ神父がこの格言を盛んに流布(るふ)したようです。かくして、日本の処世訓の「猿=ザル」がヨーロッパの格言を猿(チンパンジー)の形で普及させるのに一役買うことになったのです。

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日本カレンダー暦文化振興協会 理事長

中牧 弘允

国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。
吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営人類学。

中牧弘允 Webサイト
吹田市立博物館Webサイト