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十二支の申-猿文化の古今東西

今回は猿文化の古今東西について学んでみましょう! こよみの博士ひろちか先生
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インドネシアの暦は複雑きわまることで有名です。とくにバリ暦は1日ごとの暦注が半端でなく、日付の数字のまわりに年月、曜日、吉凶、神霊などの情報がひしめいています。曜日も1日週から10日週まで10種類のっています。なかでも重要なのは3日週と5日週と7日週です。それを仮に三曜、五曜、七曜と名づけてみましょう。三曜はトゥリワラといい、3日ごとに転々と開催される市(いち)の目安となっています。五曜(パンチャワラ)もまた移動市と密接につながっていて、市の日(パサラン)ともよばれています。

日本でも移動市の痕跡は八日市や十日市という地名にかすかに残されています。しかしジャワ島、バリ島、さらに南スラウェシ島ではパサランのサイクルはいまでも広くもちいられています。その名称は順番にルギ(ウマニス)、パイン、ポン、ワゲ、クリウォンです。ルギは破壊神シヴァの別称イシュワラのための日で、満たされない日。パインは創造神ブラフマのための日で、人から与えられる日。ポンは悪神マハデヴァのための日で、悪日。ワゲは維持神ヴィシュヌのための日で、充実した日。クリウォンはシヴァ神のための日で、知恵を授かる日です。ヒンドゥーの神々と関連づけられていますが、名称自体は外来のものとは認めがたいそうです。

さて、五曜は三曜や七曜と組み合わさることによって威力を増します。たとえば三曜の最終日カジュンと五曜の最終日クリウォンが重なるカジュン・クリウォンの日は悪霊が活動しやすく、呪術をかけるのに最も適した日とみなされています。この日は15日周期でめぐってくる勘定になります。他方、五曜と七曜の組み合わせは35日周期となり、誕生日の曜日や、宗教行事や会合の日取りなどにつかわれます。一例をあげれば、故スハルト大統領はクリウォンの金曜日に重大発表をすることが多く、ジャーナリストは外出をひかえていたそうです。また、一般のジャワ人も、金曜日の前夜に墓参りや呪術をおこなうことが多く、聖墓や聖所ごとにクリウォン金曜日とかパイン金曜日という具合に、35日ごとに多数の人びとを夜間にあつめる特定の日をもっているのです。それはいわば「大安の金曜日」といった類(たぐい)でしょうか。

35日周期(ツンペック)を6回繰り返すと210日になり、これがウク暦の1年の単位となります。ウク暦とは七曜―アラビア起源の週日名+ポルトガル語起源と推定される日曜日ミング―を基本とした暦法で、1年は30週210日です。これは干支と同じように、季節や天文現象とは関係なく繰り返されるサイクルです。ジャワ人やバリ人は誕生日をツンペックの曜日で記憶し、年齢をウク暦で数えるのがふつうです。日本人は誕生日を西暦の年月日でおぼえていますが、かれらは生まれた日の七曜と五曜で認識しています。したがって、日本人は誕生日の曜日にうとく、ジャワ人やバリ人は年月日に関心を払わないのです。そのうえ、ウク暦の1年(210日)は西暦の1年(365日)の3分の2以下なので、どんどん年齢を重ねることになります。西暦で20歳はウク暦ではほぼ35歳、還暦の60歳は104歳をこえる、といった計算になります。実際に年齢を聞くと、70歳とか80歳とか切りのいい答えが返ってくるようです。なかには150歳という自慢げな返答もあるといいます。歳を取りたくない日本の女性にはウク暦は禁物です。しかし、誕生祝いも210日ごとと聞けば、心を動かされる人がいるかもしれません。

このようにウク暦、あるいはジャワ・バリ暦とよばれる暦法では、五曜と七曜の組み合わせが重要な役割を果たし、ほんの一部をここに紹介しましたが、きわめて複雑な体系とそれにもとづく慣習や吉凶の基準をもっていることを再度強調しておきたいと思います。

【参考文献】
岡田芳朗『アジアの暦』大修館書店、2002年。
関本照夫「ジャワ聖墓巡礼考―イスラームと土着的伝統主義―」中牧弘允編『神々の相克―文化接触と土着主義』新泉社、1982年。
宮崎恒二「こよみ」石井米雄監修『インドネシアの事典』同朋舎、1991年。
嘉原優子「交錯する暦・融合する暦―バリ」『国際交流』99号、2003年。

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日本カレンダー暦文化振興協会 理事長

中牧 弘允

国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。
吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営人類学。
著書に本コラムの2年分をまとめた『ひろちか先生に学ぶこよみの学校』(つくばね舎,2015)ほか多数。

中牧弘允 Webサイト
吹田市立博物館Webサイト