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十二支の申-猿文化の古今東西

今回は月齢の記号について学んでみましょう! こよみの博士ひろちか先生
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カレンダーには月齢が記号で表現されることがすくなくありません。といっても、日本では旧暦カレンダーにその傾向がつよく、一般の太陽暦には月齢はないのがふつうです。一方、日めくりには月齢が毎日、形もかなり忠実に載っています。天文台が発行するカレンダーにはもっと正確に月齢が表記されています。つまり約29.5日の周期のどこに位置するかについて、たとえば午後9時の時点で19.7のように表示されています。

月齢とは言うまでもなく月の満ち欠けのことです。新月を起点とし、三日月、上弦、十三夜、満月、二十三夜、下弦とつづき、ふたたび新月に戻ります。新月は朔(さく)、満月は望(ぼう)と言いますので、1ヵ月のことを朔望月(さくぼうげつ)と称しています。その度合いが0から29.5のあいだを行き来しているのです。

世界各地のカレンダーを調べてみると、月齢に関してもいろいろおもしろいことがわかります。まず太陰暦をつかっているところでは、日付の数字そのものが月齢をあらわしているので、記号を必要としません。そのため、中国やインド、あるいはイスラーム圏のカレンダーには月齢の記号はほとんど見当たりません。それに対し、太陽暦のみを採用しているところでは、しばしば三日月や満月、あるいは上弦・下弦の記号が付随的に印刷されています。それも地域によって顕著な差異がみられます。

月齢記号をこのんでカレンダーにつかっている筆頭は、カトリック文化圏のようです。ブラジルは世界最大のカトリック人口をかかえる国ですが、新月、上弦、満月、下弦の4つの記号がもちいられています。一般に新月は黒丸、上弦は左半分が白、満月は白丸、下弦は右半分が白です。逆に、新月を白丸、上弦を右半分が黒の半月、満月を黒丸、下弦を左半分が白の半月であらわしているものもあります。つまり、記号に統一はありません。しかも、そっけない記号もあれば、顔の形をしたものもあります。そして、それらの記号を日付欄の空きスペースを利用して表記するカレンダーもあれば、日付欄の数字の周囲に記号を配しているものもあります。このように記載はまちまちですが、新月、上弦、満月、下弦の4つの記号は共通しています。新月と満月の2つでもなければ、毎日の29個や30個でもないのです。

ブラジル同様、南米諸国のカレンダーも月齢記号に関しては似たり寄ったりです。中米のメキシコでも4個の月齢記号が一般に表示されています。ブラジルやメキシコの宗主国はイベリア半島のポルトガルやスペインです。そこのカレンダーをみるとやはり4種の月齢記号は不可欠のようです。したがって、どうやらカトリックに根ざしたカレンダー文化として月齢表示は共通性をもっているようです。

それを例証するかのように、フランスのもっとも標準的なカレンダーである郵便局発行のものにも4つの月齢記号は付いています。さらに、アジアで長くスペインの支配下におかれたフィリピンではカトリック教会周辺で売られている宗教的カレンダーにはやはり同様の特徴が認められます。

ところが、新大陸でもアメリカの一般的なカレンダーには月齢は載っていません。もちろん例外は見られますが、アメリカ人は月の満ち欠けにはあまり関心がないようです。かつての宗主国イギリスのカレンダーでも月齢の影はきわめて薄いと言えます。それはドイツも同様です。これはどうやらプロテスタントの伝統と関係があるかもしれません。月に願いを込めるより合理性を追求する心性と関連づけたくなります。しかしながら、北欧のプロテスタント諸国であるフィンランドやノルウェーのカレンダーにはきっちり月齢マークが入っています。

月の満ち欠けは占いにかかわる文化を発達させてきました。たとえば、満月に向かう時に開店は吉、他方、閉店は新月に向かう時に吉といった観念があります。月齢記号はそのような判断にも道しるべとなっているのです。

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日本カレンダー暦文化振興協会 理事長

中牧 弘允

国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。
吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営人類学。
著書に本コラムの2年分をまとめた『ひろちか先生に学ぶこよみの学校』(つくばね舎,2015)ほか多数。

中牧弘允 Webサイト
吹田市立博物館Webサイト