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山の日のルーツ-国際山岳年と地球サミット

今回は山の日のルーツについて学んでみましょう! こよみの博士ひろちか先生
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今年から「山の日」があらたに「国民の祝日」に加わります。「海の日」(1996年制定)があるのに「山の日」がないのはおかしいという訴えにこたえた格好になりますが、日にちに関しては多少の紆余曲折があったようです。日本で祝日のない月は6月と8月のみで、山岳関連団体の案は当初、6月の第1日曜日にもってくるというものでした。しかし、年16日の祝日数は「多すぎる」との意見があり、産業界からも生産に支障の少ない盆休みにつながる日という慎重論が浮上しました。後者の場合、13日からの盆につづく12日がもっともよさそうですが、この日は日本航空の御巣鷹山墜落事故があった日で、祝日にはふさわしくないという判断が働いたようです。そして結局のところ、8月11日が選ばれたという次第です。

「山の日」制定のルーツをたどると2002年の「国際山岳年」にたどり着きます。国連が定めた記念すべき年に向け、2001年には民族学者で探検家の梅棹忠夫氏を顧問に据え、登山家の田部井淳子氏を委員長とする日本委員会が発足しました。世界共通のスローガンは「我ら皆、山の民」(We are all mountain people)でした。その活動のひとつに「日本に山の日を」というキャンペーンがありました。それはすぐには実を結びませんでしたが、東日本大震災の復旧がひと息ついた2013年、超党派の「山の日」制定議員連盟が組織され、一気に加速しました。その際、自民党幹事長の谷垣禎一氏が「日本山岳ガイド協会」の会長であったことが追い風になったと言われています。

都道府県レベルではすでに「山の日」とか「森林の日」のような日を制定しているところが30近くありました。たとえば6月の第1日曜日は「ひろしま『山の日』と「福井県森づくりの日」に当てられ、山梨県は8月8日を「やまなし山の日」に定めていました。祝日法改正とほぼ同じ時期、山に縁の深い長野県は2014年に7月第4日曜日を「信州 山の日」に制定しました。

今年の8月11日には上高地で関係者による記念式典が開かれ、松本市内では一般参加者も加わって祝祭式典が開催される予定です。官邸では記念植樹がおこなわれると報道されています。他方、民間では「山の日フェア」などと銘打った商魂たくましい記念セールなどが目白押しです。登山・キャンプ用品などは飛ぶように売れているにちがいありません。

ところで、日本の祝日は本当に多すぎるのでしょうか。たしかに欧米諸国と比べてみると、メキシコ7日、ブラジル9日、ドイツ9日、フランス11日、アメリカ11日、イギリス14日のように、日本がそれらを上回っています。しかし、アジアに目を転じると、韓国は日本とおなじ16日、インドは17日で、中国にいたっては21日となっています。また、フランスのように1ヵ月はバカンスをとらねばならない国もあります。こうしてみると、日本の祝日数は少ないとは言えませんが、多すぎるほどでもありません。

山と森が国土の7割も占める日本で「山の日」を祝う意義はどこにあるのでしょうか。祝日法では「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」日と定められています。しかし、ルーツとなった「国際山岳年」日本委員会の設立趣意書には次のような指摘がなされています。

 

日本は山国と言いながら、戦後の数十年、開発優先の風潮の中で、山々のことはおざなりにしてきた。…この機会に、身近な山々を見なおし、山を愛する市民の輪を広げることは、私たち自身のためであるだけでなく、次世代の暮らしの環境を守るために不可欠のことと考える。

実は、国際山岳年のルーツのさらなる淵源(えんげん)には1992年にリオデジャネイロで開催された地球サミット「環境と開発に関する国際連合会議」があります。「山の日」にはそのアジェンダのひとつである「持続可能な山岳開発」が継承されているのです。リオでは目下オリンピックが開催されていますが、「山の日」は4半世紀前の地球サミットの精神を思い起こす機会となるのでしょうか。

【参考文献】
江本嘉伸「ジャンジャンの思想―『山の日』に考える」『季刊民族学』157号(特集 信州の山)、千里文化財団、2016年。

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日本カレンダー暦文化振興協会 理事長

中牧 弘允

国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。
吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営人類学。
著書に本コラムの2年分をまとめた『ひろちか先生に学ぶこよみの学校』(つくばね舎,2015)ほか多数。

中牧弘允 Webサイト
吹田市立博物館Webサイト