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蚯蚓(みみず)

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草も木も持ちたる性のままにして よく育つるを真土といふ 『会津歌農書』

土の中の小さな虫や微生物たちは、腐葉土や動物の死骸をゆっくりと分解し、冬の間も土を作り続けています。健康な土にはわずか1グラム中に1億もの微生物が棲んでいるのだそうです。土は本来、さまざまな植物や動物たちの亡骸。命のリレーが積み重なってできたものであり、生と死が混在する命の塊です。

かつて地球上に土は存在しなかったのだそうです。海と岩とわずかな砂地があるだけでした。最初の生物は海から生まれ、陸に上がっていきました。そして岩のすき間に根を張った最初の原始植物があったと考えられています。その植物の死骸が次第に積み重なって岩の上に土を作り、その土の上に少しずつ他の植物が誕生し、長い年月をかけて山になっていったと考えられています。山ができてはじめて、川が生まれたのです。

植物の微細根はミクロな世界で分解された栄養分だけを吸収することができますが、必要なものだけを取捨選択する能力があるのだとか。その神秘のメカニズムはよくわかっていないのだそうですが、土と植物の命のリレーは、4億年前から続いている奇跡の循環システムです。すべてのものは土から生まれ、土に還ります。土に還ることのない土は痩せてしまうということになります。自然界に、本来、廃棄物は存在しません。本来の姿は、ただ循環があるのみです。廃棄物という概念は、人間が作り出したものなのだそうです。

ダーウィンは晩年をミミズと土壌の研究に捧げ、ミミズが土のない石の上に数十センチの土を作り出す様子を長い年月をかけて観察しました。ミミズは窒素やリンを含む栄養豊富な糞をせっせと排泄し、その糞はさらに小さな微生物たちの格好の住処となります。また土中を活発に動き回ることで土をやわらかく耕し、通気性をもたらすことから、日本では「自然の鍬」と呼ばれていました。アリストテレスは「大地の腸」と名づけ、英語名ではearth worm(地球の虫)です。

春に孵化するミミズは夏に活動期を迎え、地上に這い出てくることが多いためか、5月の七十二候にあげられています。ミミズは土壌の豊かさを象徴する存在であり、昔の人にとって田畑を耕す小さなミミズ(自然の鍬)をみることにささやかな喜びがあったのではないでしょうか。もしミミズをみかけたら、太古の時代から連綿と続く、長い長い土の物語を感じてみてください。

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あじさいの葉がにわかに大きくなってきました。梅雨を色あざやかに彩る紫陽花はもちろん花も美しいのですが、私はつぼみをつける前の、大きくなった葉の色が好きです。ザ・みどりと呼びたくなるような、青々とした瑞々しい色に毎年、目がとまります。紫陽花は強い生命力で、みるみるうちに大きく葉を広げた後、その中心に小さなつぼみをつけ始めます。つぼみが大きくなるにつれ、梅雨が近づいているのを感じます。

ところで、視覚で春と夏を見分けるとしたら、ある日ふと、花よりも青葉、若葉の美しさに目がいくようになるころが夏の始まり、といえるのではないでしょうか。西行はこんな歌を残しています。

時鳥きく折にこそ夏山の 青葉は花におとらざりけれ   西行

昔の人は青々とした山の景色に、夏の訪れを感じていたようです。「夏山」は青や緑を愛でる表現としてしばしば歌に詠まれています。

花鳥のあかぬわかれに春くれて けさよりむかふ夏山の色  玉葉集

「みどり」は元々、この新緑の季節の草木、とくに「若芽」を意味した言葉で、「芽出る」が語源ともいわれています。本来は新芽の色、「若々しく、瑞々しいもの」をさしていましたが、転じて、植物一般の色や森林、自然をさすようになったのだそうです。面白いことに英語のグリーン(green)の語源もまた、アーリアン語のガーラ(ghra)で「成長する」という意味なのだそうです。東西をとわず「みどり」は発生し、成長する命の色といえそうです。この季節、楽しむべきは葉っぱです。葉っぱを観察したり、葉っぱの香りを楽しんでみてください。たしかな手触りや匂いが、なによりのご馳走です。目に青葉、山ほととぎす、初鰹。

清和月

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ゴールデンウイークを過ぎ、薄らと汗ばむような陽気に包まれています。草むらの中からジーッと夏虫も鳴き始め、いつもと違う素晴らしい鳥のさえずりに気づくとき、とても幸せな気持ちになります。身も心も軽やかになっていく、夏の始まり。旧暦の卯月は初夏です。

卯月の別名には、素敵な名前がたくさんあります。まずは文字通り、夏初月(なつはづき)。真っ白な卯の花が咲く卯花月、繁殖期を迎えた小鳥たちが、一年でもっとも美しくさえずる鳥来月(とりくづき)、初夏を告げるほととぎすの第一声を待つ鳥待月(とりまちづき)などの名があります。

私がもっとも好きな言葉は、清らかに和する、清和月です。この素晴らしい季節を簡潔に言い表した言葉です。平和で、優しく、朗らかな季節。ほかには、春の花が残る花残月、木葉採月(このはとりづき)は蚕の食べる新鮮な桑の葉を採る月の意です。何度か休眠を繰り返しながら成長した蚕が、最後に猛然とした食欲で桑の葉を食べると、いよいよ糸を吐いて繭を作り始めます。かつて絹は、日本の重要な産業のひとつでした。農家は蚕の世話と田植え、そして地域によっては麦の収穫も重なって、忙しい時期でした。

「猫の手も借りたい」という言葉はここからきており、猫は大切な蚕をねずみから守ってくれることから、実際に猫を貸し借りすることもあったようです。猫の手は役に立たないもののたとえになっていますが、かつては役に立っていたのです。絹は莫大な利益を生み出し、繁栄をもたらすことから蚕のそばにいて、大事にされていた猫にも福を招くイメージが重なり、絹産業が衰退した後、商売繁盛の縁起物としてまねき猫のかたちになって、今日に続いています。卯月の七十二候には「蚕盛んに桑を食む」の他にも、「紅花栄う」「麦の穂実る」など、かつての重要な産業に関わる言葉が盛り込まれています。「麦秋」も卯月の異名です。

長春花(ちょうしゅんか)

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5月に入り、バラの花が咲き始めました。まさしく立夏とともに咲き始める花です。風薫る季節といいますが、文字通り、バラの香りがふんわりと風に乗って、漂ってきます。かつて薔薇といえば、中国から渡来した長咲きの庚申薔薇をさし、そうびと呼ばれていました。日本原産の野バラは、刺のある灌木を総称して、茨(いばら)と呼ばれていましたが、バラはいばらの略で、薔薇をバラと読むのは後世の当て字です。

薔薇は夏の季語ですが、春を過ぎても長く咲くことから、江戸時代には、長春花(ちょうしゅんか)、あるいはもっとシンプルに、長春と呼ばれることが多かったようです。薔薇をみて、常世の春を感じていたのですから、現代人の想像する天国のようなバラ色の人生のイメージは江戸時代からあったということになります。

ところで、大正時代に大流行した染め色に、「長春色」という色があります。英国のオールドローズを思わせる、やわらかい、深みのあるピンク色です。現在も万筋や鮫文様など、女性の江戸小紋の地色によく使われている色ですが、バラ色をまとっていることを知らずにお召しになっている方もいらっしゃるのかもしれません。いわば、飽きのこない洗練されたピンクなのでしょう。今もなお愛され続けている、その年月の長さを思うと、「長春色」とは、なんとも的確なネーミングであったのだと思えてきます。

我はけさうひにぞ見つる花の色を あだなる物といふべかりけり 紀貫之

日本の伝統色「長春色」

水口(みなくち)

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田植えの季節になりました。ウツギ、タニウツギ、ツツジなど、この季節に咲く花は苗代花(なわしろばな)と呼ばれています。

種もみをまく日、田んぼの水口に、御幣や季節の花、木の小枝を挿し、種もみの残りで作った米を、焼き米にして供える風習があります。近所の山野でとれる季節の花は、山の神から田の神を降ろすための依代。農家ごとにひっそりと行われ、花の種類は上記の他、山吹、栗の花、杜若、アヤメなどさまざまです。決して豪華なものではなく、楚々としたものですが、水が引かれたばかりの静かな田んぼに、ポツンと灯る宝石のような花の姿になんともいえない美しさを感じます。花や植物の持つ波動が、田んぼ全体に広がっていくようにもみえます。

ちなみにお供えの焼き米やお餅は早々に鳥たちに食べてもらい、秋の収穫物を荒らさないように祈るそうです。日本には他にも似たような風習があります。正月三が日のあいだ、日頃は迷惑なねずみをあえて嫁が君と呼んでご馳走を与えたり、正月七日のカラスにお米やお餅を投げ与えたりします。ねずみは大黒様のお遣い、カラスは山の神ということになっていますが、人間と動物の豊かな共生が感じられる伝統です。

長い年月の中で育まれてきた習俗は、近代の私たちが忘れてしまった「譲り合う」という大切なことを伝えてくれているように感じます。前回、書きました燕は世界中で幸福を呼ぶ鳥として親しまれていますが、穀物を荒らさず、害虫を食べてくれる益鳥として農家でも喜ばれました。花の精霊で水口を祀ることも自然の恵みをいただき、命にあるものに宿る神意を信じていたからこその風習といえるでしょう。

年中行事を伝える古い和本の中にみつけた「水口」の行事です。

年中行事「水口」

次回配信は6/3(月)です。お楽しみに!

次回配信まで、こちらもあわせてお楽しみください。

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