風薫る、皐月の頃― 季節の色は、まぶしい新緑から、山々が沸き立つ深緑へ。 空には悠々となびく鯉のぼり、居間には立派な鎧兜が飾られて、菖蒲の節句を迎えます。そういえば、初めて幼心に、男の子をうらやましく思ったような…。

今は、男女共に、子供たちの成長を喜び、健やかな成長を祈る日とされています。 古くからは、この時季に病が増えるとされて、季節初めは慎重に、心身を清め祓いました。そこで、邪気を祓う力があるとして珍重されたのが、菖蒲酒です。 飾り供えるだけではなく、薬効もあるところが、菖蒲の本当のご利益。根の部分を薄切りにしてお酒に浮かべれば、独特の香りが邪気を祓い、心身を癒す薬酒に。するりと伸びた葉は剣のように、ばっさばっさと邪気を断ち切り、病魔を祓ってくれるのです。
この日を誰よりも祝ってくれた、親への感謝も忘れず、清々しい菖蒲酒に想いを込めます。

この時季になると、賑やかなお祭りが各地で繰り広げられます。私の地元でも、数基の神輿が出る祭日がありました。 祭りの朝、威勢のいい掛け声を響かせた男衆が神輿を担いで、街中を練り歩きます。 幼い頃、男衆のふんどし姿が怖ろしくて、家の中で、祭りの声が遠くなるのを、じーっと聞いていました。それが年頃になって、巫女として神社に奉仕することになり、毎年、神輿に情熱を注ぐ男衆の姿を目の当たりにして、いつの間にか、畏怖のような気持に変わっていきました。
命をほとばしらせる祭りの情景には、男たちへの憧れを抱かずにいられません。

5月5日に行われ、菖蒲の節句の由縁とされる神事が、京都の藤森祭です。 藤森祭で、最も賑わいを見せる駈馬神事では、素朴な衣装に身を包んだ男たちが、勢いよく駆ける馬上で、ハラハラするような曲技を幾つも披露します。馬上に逆立ちになったり、足だけでぶら下がったり―。男たちに尚武の神が宿る瞬間、観衆は大いに沸き立ちます。祭りの余韻さながら、尚武の神様のご利益を頂くことで、武を尊べば、勝負に通じるという、菖蒲の縁起を物語っています。

さくら色から深緑へ、初夏を迎えると、生酒が美味しい季節。お酒は、本来、低温殺菌(火入れ)をしますが、それを一切行わないのが「生酒」です。生だからこそ、要冷蔵が美味しさを保つ秘訣。またこの時季は、冬期に搾ったお酒が、大切に低温熟成されて、出荷されるころ。春の搾りたての味わいが、フレッシュさを残したまま、少しまろやかさを魅せてくれます。初夏を迎えるお酒のラベルも、緑や青の涼やかな色へと衣替え。木漏れ日を浴びた清らかな水辺で、ひんやりとした一杯を楽しみたいですね。

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