月の美しさが、いっそう冴えわたる季節。
古くから人々は、静かな秋の訪れと共に、月の満ち欠けを愛でてきました。月を愛でる宴が催された平安時代には、月はどんなに明るく輝いていたことか。水面に映る月を愛で、また盃に映る月を楽しんだように、今の私たち以上に豊かな感性をもって、秋の夜長を遊んでいたのかもしれません。

私が生まれ育った近くの観光名所、嵐山には、月にちなんだ名の渡月橋がありました。

由縁は鎌倉時代に遡ります。当時、亀山上皇が嵐山での月見の折に、曇りなき夜空に、橋の上をあたかも月が渡っていく様に見えたことから、「くまなき月の渡るに似たり」とおっしゃったことに因みます。かつての人々へ想いを馳せるように、私もこれまで、何度かお月見に渡月橋へと行った事がありました。橋の真上を真っすぐと昇っていく、まんまるのお月さま。あたりは迫る山並みの闇と静寂に包まれ、川面には月が映り揺らいで、それはこの上ない美しい情景でした。

さて今宵はどこで月を眺めましょうか。

十五夜に十三夜、京都では各所の神社やお寺などで、月を愛でる宴が開催されます。毎年、その優雅さを競うかのように、雅楽や舞踊など、趣向を凝らした催しが行われているので、私にとっては、身一つでは足りないくらい誘惑が多い行事の一つです。月見ていっそう、我肥ゆる秋。各所で振る舞われる月見団子に月見酒、美味しい誘惑も見逃せません。

今年の十五夜には、縁あって、貴船神社のお月見の会へと出かけました。 街の喧騒から離れ、山林を気持ちよく走り抜けていく叡山電車に乗って、一路、鞍馬山へ。
貴船口駅を降りると、凛とした清々しい空気が漂っていました。清流沿いの道をバスに揺られて、間もなくお宮に着きました。
境内では、早くも月見酒が配られ、多くの人で賑わっていました。
本殿に参拝したあと、さっそく月見酒を手に、月が姿を見せるのを待つことに。深い緑に囲まれ、自然が迫る中で飲むお酒はまた格別なもの。
夜の帳が下りはじめた山々を背景に、秋の草花が飾り付けられた舞台では、舞妓さんの唄と踊りがはじまりました。うっとりと眺める人たちに芽生える、不思議な一体感。
そのとき、雲に隠れていた月が、そっと顔を出しました。
今年も秋の実りに感謝して、多くの人と喜びを共にした月の宴。
お月様もにっこりと、微笑んでくれたようでした。

いよいよ燗酒が身に染みる季節が到来しました。季節やお酒の種類によって、色んな温度帯を楽しめることも、日本酒の大きな魅力のひとつ。
また、ひとくちに燗酒と言っても、温める温度帯によって「日向燗」「人肌燗」「ぬる燗」「飛び切り燗」など、風情ある名前が付けられています。今の季節、私はぬる燗くらいで飲むのが大好きです。温めることで、大きく花開いたように味わいが変わって、思わずうっとり…なんてことも。体が冷えやすいことも多い女性には、特におススメしたい飲み方です。

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