足元のセンス・オブ・ワンダー
都会の野の花

今回は3月の今、都会の住宅地に咲いている花たちをまとめてご紹介します。わが家から数分以内のところに咲いている花たち。すべて撮り下ろしです。これで大体、見分けられるようになると思います。

キュウリグサ
勿忘草をさらに小さくしたような水色の花。茎を摘むとキュウリのような匂いがするのが名の由来。中央に黄色を持ったミクロな美しさ。野の花の中でも、いちばん小さく、いちばん好きな花です。

写真1キュウリグサ

オオイヌノフグリ
群生することもありますが、ハコベ、キュウリグサ、ヒメオドリコソウ、カラスノエンドウと混成していることも多く、春のコロニーに欠かせない存在。詳細はこちらをご覧ください。
足元のセンス・オブ・ワンダー「オオイヌノフグリ」

写真2オオイヌノフグリ

ハコベ
はこべら。生薬では繁縷。這うように繁茂する野の花の代表選手。昔からニワトリや小鳥の餌にされてきたことからヒヨコグサとも。小鳥の調子が悪いとき、生のハコベを食べさせると元気になることもよく知られています。見分け方は10枚の花びら。実際は5枚なのですが、深い切れ込みがあるので10枚にみえます。茎の赤いのはコハコベ。ハコベ属もいくつか種類がありますが、10枚の花びらがあるかどうかが見分けポイントです。

写真3ハコベ

オランダミミナグサ
ハコベによく似ていますが、よくみると花びらに桜のような切れ込みがある5弁花です。外来種ですが、全国でみられ、在来のミミナグサは少なくなっています。イヌノフグリも同様で、全国でみられるオオイヌノフグリは明治以降に日本に広まった外来種です。

写真4オランダミミナグサ

タネツケバナ
種漬花。種籾を水に漬ける頃に咲き始めることから、季節の目安とされた花です。在来種は水田の雑草でしたが、近年は荒れ地や乾燥地に生える外来のミチタネツケバナが増え、日本だけでなく、世界中に広がりつつあるのだとか。ハコベやオランダミミナグサよりさらに小さく地味な花ですが、生命力は抜群。こんなふうにちょっとした隙間のような場所でも、たくましく咲いています。茎の周囲に棒を切ったような長角果が出ているので、見分けがつきます。

写真5タネツケバナ

ナズナ
ペンペングサ。春の七草のひとつ。三味線の撥のようにみえるハート形の葉は果実で、子供のころはこれを上手に引っ張ってぶら下げ、しゃらしゃらと鳴らしてよく遊びました。

写真6ナズナ

ヒメオドリコソウ
明治以降に入ってきた外来種ですが、関東ではホトケノザよりヒメオドリコソウの方が優勢になってきています。一見、ホトケノザに似ていますが、葉のつき方が違います。葉の上部が紫がかっているのも特徴的です。ホトケノザと混成していることもよくあります。この写真は、ヒメオドリコソウに囲まれて、一本だけがホトケノザ。がんばれ、ホトケノザ!

写真7ヒメオドリコソウ

ホトケノザ
別名、三階草。春の七草の仏の座はタビラコのことで、若葉を食用としました。このホトケノザは食べられませんが、日本の代表的な草花です。段々の座のような葉のつき方が独特。つぼみは深紅に近いピンクです。

写真8ホトケノザ

タビラコ
田平子。名前の由来は地面に張りつくように広がるロゼッタ状の姿から。そのロゼッタ状の葉が仏の座に見えたのでしょう。細い茎をスーッと長く伸ばして、ポンポンと黄色い花をつけるので見つけやすく、都会の片隅でもたくましく、元気に生きています。よくみると花びらのこまかいギザギザが愛らしい花です。

写真9タビラコ

アメリカフウロ
可愛いらしいピンクの花はアメリカフウロ。ゲンノショウコと同じフウロソウ科ですが、花はかなり小ぶりです。深い切れ込みのある葉が見分けポイント。

写真10アメリカフウロ

ツタバウンラン
蔦葉海蘭。これも都会の片隅によく繁殖しています。塀に沿ってぐんぐん延びていきます。見分け方のポイントは名前の通り、蔦によく似た葉の形。そして上部にあるうさぎの耳。よく似た花についてはこちらをご参照ください。
足元のセンス・オブ・ワンダー「キランソウ」

写真11ツタバウンラン

スミレ
石畳の隙間にもたくましく咲いています。スミレは種類が多く、花の色も葉の形もさまざま。スミレの種はアリが運んでいますので、近くにアリの巣がある方がスミレは増えます。

写真12スミレ

カタバミ
片喰。ヤマトシジミの大事な食草です。お住まいの地域にヤマトシジミを増やしたかったら、ぜひカタバミを大切にしてください。ハート型の3枚葉はシンプルで、もっとも愛用された家紋の王様です。繁殖力が強く、あらゆる隙間から懸命に生えてくる、その強い生命力にあやかったのでしょう。カタバミはみているだけで楽しいハートの大群。陽が陰ったり強風が吹くと、ハートの葉は折り畳まれ、花も閉じてしまうのが特徴です。葉が赤褐色のものは、アカカタバミと呼ばれています。

写真13カタバミ

ムラサキカタバミ
紫片喰。江戸時代に入ってきた帰化植物で、鮮やかな赤紫の花をびっしりと咲かせます。黄色のカタバミより大きな赤紫の花です。

写真14ムラサキカタバミ

オオキバナカタバミ
大黄花片喰。明治中期に入ってきた南アフリカ原産の帰化植物。ムラサキカタバミより、さらに大きな花をつけ、ゆさゆさと咲いています。最近はカタバミ属をオキザリスと呼ぶ人が多くなってきました。

写真15オオキバナカタバミ

ムラサキハナナ
紫花菜。アブラナ科の紫の花。都会の野草の中ではおおぶりで、背丈も伸びるため、よく目立ちます。

写真16ムラサキハナナ

ハナニラ
花韮。別名、ベツレヘムの星。美しい六弁花です。明治以降に入ってきた帰化植物で、色は白や紫、青など色々あります。勝手に増える雑草ですが、抜く人は少ないのではないでしょうか。

写真17ハナニラ

ムスカリ
別名ブドウヒヤシンス。園芸種として人気のムスカリですが、野生化して、空き地などに咲いています。美しい瑠璃色は若草の大地によく似合います。

写真18ムスカリ

ハハコグサ
母子草。春の七草の御形(ごぎょう)。葉も花もふんわりした綿毛に包まれています。昔の草餅の材料はこの葉で、ヨモギに変わったのは明治以降だそうです。ほこほことした優しい春の雰囲気を醸し出す名脇役。初夏まで長く咲き、これから背丈もぐっと伸びてきます。

写真19ハハコグサ

以上、わが家から2、3分以内の路傍や空き地に咲いている花たちをご紹介しました。大地はいまが花盛り。誰の世話も受けずに、都会の住宅地に生きるたくましい花たち。みなさんよくご存知のタンポポやカラスノエンドウは割愛しました。今の時期、ぜひ一度、道路脇やコンクリートの隙間に咲いている小さな小さな花の色や形を確かめてみてください。生命力の強い花の姿にあやかって、しなやかに生きていきましょう。

写真20野の花の花束

近所で摘んできた野の花の花束です。

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高月美樹 和文化研究家
高月美樹 和文化研究家

月刊婦人雑誌の編集を経て独立。96年から人生に起こるシンクロニシティを探求し、日本古来の和暦に辿り着く。2003年より地球の呼吸を感じるための手帳、「和暦日々是好日」を製作・発行。月と太陽のリズムをダイレクトに受け取り、自然の一部として生きるパラダイム・シフトを軸に講演、執筆、静かにゆっくり活動中。

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