足元のセンス・オブ・ワンダー
庭石菖

今回はこの季節にみかけるピンクの花たちをご紹介します。

まずひとつめはニワゼキショウ(庭石菖)。わが家の前の公園は今、シロツメクサが真っ盛りで白い絨毯のようになっているのですが、よくみるとその中に、この可憐なピンクの花がポツポツと咲いています。

写真1

庭石菖は北アメリカ原産の野生種で、日本には明治頃に入ってきて、全国に広まった帰化植物です。今では全国どこででもみられ、公園など日当たりのよい芝生や草地を好みますが、条件の悪い荒れ地やアスファルトの道端でも咲く強さをもっていますので、この季節、ちょっと足元を探してみてください。きっと見つけられると思います。

写真2

都会では群生はしていないことも多く、あまり目立ちませんが、ひっそりと咲く姿も愛らしく、花言葉に「愛らしい人」とあるのも頷けます。小さいながらもお行儀よく、キリッとした品のいいお顔の花で、おもわず「こんにちは」と挨拶したくなります。

花期は5月〜6月末頃。直径5ミリほどの6弁の花で、中心は黄色です。サトイモ科の石菖とはまったく異なるアヤメ科なのですが、昔は庭に好んで植えられたのでしょうか、庭石菖と呼ばれるようになったようです。いまでは雑草と分類されることも多いのですが、庭と名づけられているのも面白いですね。この季節の代表的な「野の花」です。白や青などの交雑種もあります。

写真3

もうひとつはアメリカフウロです。この花も昭和初期に入ってきた北アメリカ原産の帰化植物で、花期もちょうど同じ5月〜6月頃です。庭石菖よりも淡い色合いで、花びらは5弁。薄いピンクか藤色のような色合いで、繊細な花びらに美しい筋がみえるところも、5裂〜7裂の深い切れ込みのある葉の形も、尖った剣のような実をつけるところも、同じフウロソウ科のゲンノショウコにそっくりですが、花はゲンノショウコよりもずっと小ぶりです。ゲンノショウコが咲くのは初秋なので、咲く季節も違います。誰もが可愛らしいと思うようなお花らしいお花です。

写真4

最後は、アカバナユウゲショウ(赤花夕化粧)です。明治期に観賞用として日本にやってきて、野生化したといわれています。濃い鮮やかなピンクで、花びらは4弁。月見草と同じマツヨイグサ科で、夕化粧という名前がついていますが、昼間から咲いています。白い雄しべと十字の雌しべがアクセントになっていて、美しい筋模様のみえる透明感のある花びら。お椀型に少し閉じかけている姿も可憐です。おもちゃのプラスチックを思わせる鮮やかなピンクは、遠目にも目にしみるように草の中で映え、夏の夕暮れにぴったり。

写真5

一日花ですが、次々と咲くので花期が長く、夏の間、河原や道端でみかけるちょっと乙女チックな花です。これも私が子供の頃はあまりみかけませんでしたが、最近、関東でも多くみられるようになり、まだまだ拡大、進行中といった印象をうけます。

写真6

ご紹介した花々は、いずれも強い繁殖力を持つ北アメリカ原産の帰化植物ですが、今ではどれも日本でよくみかける花になっています。日本の風景も、江戸時代とはずいぶん変わっていることがわかります。小さい順に庭石菖は6弁、アメリカフウロは5弁、アカバナユウゲショウは4弁です。今月も足元のセンス・オブ・ワンダー、ぜひ見つけてみてください。

写真7
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高月美樹 和文化研究家
高月美樹 和文化研究家

月刊婦人雑誌の編集を経て独立。96年から人生に起こるシンクロニシティを探求し、日本古来の和暦に辿り着く。2003年より地球の呼吸を感じるための手帳、「和暦日々是好日」を製作・発行。月と太陽のリズムをダイレクトに受け取り、自然の一部として生きるパラダイム・シフトを軸に講演、執筆、静かにゆっくり活動中。

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