足元のセンス・オブ・ワンダー
ゲンノショウコ

愛らしい赤ちゃんの歯

掃溜菊。植物の名前にはヘクソカズラなど、愛らしい花なのにあまりにも残念な名前がいくつかありますが、その代表ともいえるのが、このハキダメギクです。命名者は日本の植物学の父、牧野富太郎先生。東京の世田谷の掃き溜めで見つけたので、この名がつけられたのだそうです。もし掃き溜めでないところで見つけてくださっていたら、どんな名前になっていたでしょうか。

写真1

ハキダメギクは牧野先生の命名の逸話が物語るように戦後、東京を中心に急速に広まっていった北アメリカ原産の帰化植物です。花は夏の6月ごろから咲いていますが、花期が長く、花の少なくなった晩秋になってもまだ咲いているので、今頃の方が目につくかもしれません。

そしてこの花は、本当に都会の掃き溜めが好きです。つまり文字通り、路傍の花。家の周りなどの乾燥した場所、アルファルトやブロック塀添いの埃が溜まったような場所、都会のちょっとした空き地など。庭や道路を箒で掃いているとき、なんでもないと思っていた小さな草にふと、小さな花が咲いている。よくみると、それがハキダメギクだと気づく。そんな感じなのです。

写真2

しゃがみこんでよく見ないとわからないような小さな花なのですが、じつに愛らしい、珍しい花びらの形をしています。私は初めてみたとき、赤ちゃんの歯のようだと、うれしくなりました。生えたての純白の歯です。

それ以来、大好きになり、いつもこのギザギザを確かめるように見ています。特徴のある花びらですので、誰でもすぐ見分けられると思います。これかなと思ったら、ぜひしゃがんで花をよく眺めてみてください。

肥沃な土地でも育ちますが、窒素の多い荒地でも生きていく術を持ったこの植物はどんどん広がって、日本ではほぼ全国で見られるようになっています。都会でも生きられるものの方が生き残りやすいのでしょう。花言葉は「不屈の精神」。11月の霜が降りる頃までみられますが、花期が長いのは次々に種をこぼして、世代交代をしているためです。

写真3

よく似た花にコゴメギク(小米菊)があります。こちらも同じく帰化植物ですが、中央の黄色が目立ち、周囲の白い舌状花が小さくため、全体に黄色の印象が強くなります。コゴメギクは数が少なく、ハキダメギクの方が優勢です。

この花は私の田んぼの畦にも咲いています。晩秋、特に多いのはミゾソバ、イヌタデ、ツユクサ、ヨメナなど。春は花、秋は花野の季節。小さな花があちこちに群生し、次世代へ向けて静かに命をつないでいく姿を昔の人はことさら愛しみました。それが「花野」や「草の花」という秋の季語になって表現されています。ひとつひとつは小さいものですが、群落となって生々流転のダイナミズムを感じさせてくれるのが秋の草花たちです。

写真4
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高月美樹 和文化研究家
高月美樹 和文化研究家

月刊婦人雑誌の編集を経て独立。96年から人生に起こるシンクロニシティを探求し、日本古来の和暦に辿り着く。2003年より地球の呼吸を感じるための手帳、「和暦日々是好日」を製作・発行。月と太陽のリズムをダイレクトに受け取り、自然の一部として生きるパラダイム・シフトを軸に講演、執筆、静かにゆっくり活動中。

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