

スポーツにはシーズンがあります。スキーやスケートは冬がシーズンであり、野球はアメリカでも日本でも春から秋にかけてがシーズンです。冬はシーズン・オフとかストーブ・リーグとよばれています。ちなみにアメリカでは秋はアメリカン・フットボール、冬はバスケットボールとシーズンが決まっています。

北欧のフィンランドでは9月からアイスホッケーのシーズンがはじまります。そのため9月にはじまり8月に終わるカレンダーがつくられています。実際のリーグは3月で終了し、プレイオフが3月から4月にかけておこなわれます。カレンダーの表紙はスター選手たちの勇姿ではじけ、月ごとに選手たちの写真とプロフィールが紹介されています。
日本のカレンダーでも9月にはじまり8月に終わるものがあります。岸和田だんじり祭のカレンダーです。岸和田では毎年9月14日と15日にだんじり(地車)が勇壮に曳きまわされます。「喧嘩祭り」の異名をとる、荒っぽい男の祭りです。1年はだんじりにはじまり、だんじりに終わるのです。いっぽう、青森のねぶた祭は毎年、8月2日から7日にかけておこなわれます。大型の風流燈籠(ふりゅうどうろう)であるねぶたが激しく飛び跳ねるはねと(跳ね人)に先導されて風雅に行進します。青森観光コンベンション協会が発行するねぶたカレンダーは7月から翌年の8月にかけて、14カ月分を表示しています。準備の7月もねぶたのシーズンだからでしょう。

関西の夏祭りシーズンは7月です。祇園祭と天神祭があるからです。祇園祭のピークは16日の宵山と17日の山鉾巡行です。しかし、今年からは17日の前祭(さきのまつり)と24日の後祭(あとのまつり)が49年ぶりに元に戻ります。ピークが、大小の差はあれ、二つとなります。しかも、150年ぶりに復活する大船鉾が後祭の最後尾に登場します。そのため巡行が二つに分かれ、旧に復したというわけです。
かたや25日の天神祭は水都大阪の代表的な夏祭りです。とくに大川(淀川)を上り下りする船渡御(ふなとぎょ)が見ものです。くわえて4000発の奉納花火が祭りの最後を飾るハイライトとなっています。天神さまの梅鉢紋にちなんで打ち上げられる紅梅というオリジナル花火は見逃すわけにはいきません。

ところで、シーズンはスポーツや祭りにかぎったことではありません。都市にもシーズンがあるのです。イギリスにはザ・ロンドン・シーズンとよばれる季節があります。地方の貴族など、上流階級の人びとがロンドンにやってきて、社交に明け暮れるのです。そのシーズンはイースターのあとにはじまり、ライチョウの猟期がはじまる8月12日に終わるとも言われていますが、定まったルールはありません。社交は競馬、テニス、観劇、舞踏会などに及びます。オックスフォード大学とケンブリッジ大学とのレガッタ(競遭)、競馬のダービー、あるいはウインブルドンのテニス大会がおこなわれるのもこの時期です。とりわけ上流階級の子女にとっては社交界にデビューする機会ともなっています。彼女はまず女王(国王)に紹介され、シーズンのあいだに50回の舞踏会、60回のパーティー、30回の夕食会、そして25回の朝食会にでることが奨励されています。世界最大のかくれた結婚市場のシーズンなのです。

祭りは日本でも言わすと知れた恋愛の機会です。とりわけ祭りと花火はおすすめのデートプランになっています。浴衣を着た若い女性たちが四条通りや天神橋を小股に闊歩する季節がやってきました。ザ・京都シーズンやザ・大阪シーズンは望めないとしても。


日本カレンダー暦文化振興協会 理事長
中牧 弘允
国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。
吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営人類学。