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間重富(はざましげとみ)関係資料が重要文化財に

今回は山の日のルーツについて学んでみましょう! こよみの博士ひろちか先生
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月暦画は月暦図、十二ヵ月図ともいわれ、英語ではマンスリー・カレンダー(monthly calendar)と表現されます。それはヨーロッパの中世から盛んに制作された、暦に付随する12ヵ月の図のことを指します。暦は修道院や貴族の館における祈りの時間を示す時祷書に挿入されることもあれば、壁面を飾る絵画に描きこまれることもありました。いずれの場合も暦と絵画が組み合わされ、当時のキリスト教世界の世界観や季節特有の農作業を知る貴重な手がかりを提供しています。さらに自然の風景や人びとの風俗も美しく図像的に描写していました。

時祷暦の最高傑作はランブール兄弟が手がけた『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』(1413年頃~1416年、フランス)です。羊皮紙206葉からなり、1頁のサイズが29㎝×21㎝であり、金をふんだんに使用しているためか持ち上げられないほどの重さのようです。そこに描かれた月暦画は上段の月日・星座と下段の美麗な彩色細密画とで構成され、季節と生活の関係を見事に表現しています。1月の「新年の祝宴につくベリー公」では広間のテーブルのご馳走を囲んで、ベリー公を中心に、貴族や聖職者、従者や兵士などが描かれています。2月は宮廷とは打って変わって「雪の積もる田舎の風景」が描写されています。3月はお城を背景に「牛に犂(すき)を牽(ひ)かせる農夫」やブドウ畑の作業が繰り広げられています。以下、「王子の結婚」(4月)、「若葉狩り」(5月)、「夏草の刈り入れ」(6月)、「小麦の刈り入れ、羊の毛の刈り込み」(7月)、「鷹狩りに赴く貴族たち」(8月)、「ブドウの収穫」(9月)、「種播き」(10月)、「豚にドングリの実を食べさせる男」(11月)、「猪狩り」(12月)と続きます。

他方、壁面を飾る絵画には壁画そのものと額入りの絵画の二種類がありました。壁画の代表例としては北イタリアのスキファノイア宮のフレスコ画をあげることができます。「各月の間」とよばれる2階のサロンには1476年から1484年にかけて制作された12ヵ月の月暦画が残っています。構図は三段に分かれ、上段は古代神話にもとづく神々の巡行、中段は黄道十二宮のシンボル図、下段は宮廷の季節行事に充てられています。3月を例にとると、上段はビーナスの巡行、中段はおうし座、そして下段を見るとブドウの整枝作業が片隅に見出されます。

額入り絵画のほうは枚挙(まいきょ)に暇(いとま)がありません。もっとも重要と認められているのはイタリアのレアンドロ・バッサーノの一連の作品ですが、いちばん有名なのはピーテル・ブリューゲルの代表作「雪中の狩人」でしょう。バッサーノの月暦画は9ヵ月分しか現存しませんが、1580-85年頃に貴族のために制作したもので、月毎の風景・風俗を描写したキャンバスの上端には雲に包まれた光のなかに黄道十二宮のシンボルが描きこまれています。つまり装飾としての絵画に暦が付いている作品です。そして次の時代には十二宮を欠く月暦画が登場します。それを代表する画家がネーデルランドのブリューゲルです。アントワープの裕福な金融商人の邸宅の壁を飾った月暦画は1565年の作で、本来6枚あったとされますが、残されているのは5枚です。それらは「暗い日」(2~3月)、「干し草の収穫」(6~7月)、「穀物の収穫」(8~9月)、「牛群の帰り」(10~11月)と冬場の狩猟風景を主題とする「雪中の狩人」(12月~1月)です。

ヨーロッパにおける風景画の誕生に月暦画が果たした役割は近年とみに注目されるところとなり、巡回展「風景画の誕生」が2015年から2016年にかけて東京、静岡、福岡で開催されました。月暦画はまた平安時代以降の四季絵や月次絵(つきなみえ)、あるいは四季耕作図と比較しうる興味ぶかい研究対象にもなっています。

【参考文献】
樺山紘一
「キリスト教的要素」岡田芳朗他編『暦の大事典』朝倉書店、2014年。
木島俊介監修
『ウィーン美術史美術館所蔵 風景画の誕生』Bunkamura、2015年。
高橋優季
「ブリューゲル作『月暦画』連作における風景表現をめぐる一考察」『美術史学』第27号、2006年。

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日本カレンダー暦文化振興協会 理事長

中牧 弘允

国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。
吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営人類学。
著書に本コラムの2年分をまとめた『ひろちか先生に学ぶこよみの学校』(つくばね舎,2015)ほか多数。

中牧弘允 Webサイト
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