
梅の木は花が咲いていないときでも、ゴツゴツとした枝ぶりに品格があって、見とれてしまうときがあります。そこに咲くのは、丸い五弁の花びらと中央のめしべ。誰もが花といえばまず思い浮かべる完成された形で、しばしば家紋や文様に用いられてきました。シンプルかつ高貴。梅は姿も香りも清らかさの象徴です。
めでたきものとされる松竹梅の由来は、論語の歳寒の三友。なかでも梅は清友ともいい、木の花の中では、他の花よりも先んじてまっさきに咲くことから花の兄、苦境にあっても辛抱強く学び、心の花を咲かせる人になぞらえて好文木、花儒者。また品格のあるほのかな香気を放つことから匂い草、春告草、風待草などさまざまな異名があります。
雪にまつわる異称も多く、香雪、氷花、雪中君子などの異名があります。梅の花はごくわずかな気温のゆるみを感じて、どの花よりも早く咲き始めますが、しばしば咲いた後に雪が降ります。
一度、咲き出した梅の花に、雪が積もる。「雪中の梅」は平安時代から愛しまれてきた光景であり、それがかさねの色目にも表現されています。表が白で、裏が薄紅。真っ白な雪と、その下にある紅梅の色が「雪の下」です。
「香雪」に対する逆の言葉として、雪には「不香の花」という表現もあるほど、「雪と梅」は関わりの深いもの。雪をかぶった梅の花はチリチリと縮み上がったように凍りつきますが、やがて雪は溶け、そこからさらにたくましく咲き出して、見事な満開を迎えます。その姿は厳かであり、つつましやかであり、昔の人はごく自然に尊敬の念を抱き、励まされたのではないでしょうか。
一方、同じ名前を持つ植物、ユキノシタは、水辺を好んで咲く初夏の花です。小さな小さな白い花が丸い葉の上に散らばるように咲きます。その姿はたしかにちらつく雪にも似て、涼しげですが、名前の由来は、常緑の葉が雪ノ下にあっても枯れずにあるからという説もあります。
虎耳草、井戸草などと呼ばれ、昔は火傷、凍傷、かぶれ、湿疹、虫さされなどの消炎、解毒剤として井戸端など、身近にあって、さっと採れる場所に植えられていたそうです。こうした民間薬は永らく忘れ去られてきましたが、また注目される時代になりつつあるようです。
私は可憐なこの花を「小さなバレリーナ」と呼んでいます。細く白い花弁は5枚ですが、下の二枚が長く大きいため、どうしてもバレリーナが踊っているように見えるのです。たくさんのバレリーナが群れをなし、揺れ、楽しげに踊っています。
大文字草によく似ていますが、よく見ると上の3枚には、ピンクの斑点がついています。奇しくもかさねの色目の雪の下と同じ色の組み合わせになっています。
季節は寒の入り。これから「雪ノ下」が見られるでしょうか。そして夏になったら、ユキノシタの赤い斑点を見つけてみてください。ぐっと目を近づけないと見えない、小さな斑点です。
