春疾風はるはやて

季語 2020.03.13

この記事を
シェアする
  • twitter
  • facebook
  • B!
  • LINE

こんにちは。気象予報士の今井明子です。

ちょっとびっくりするような強さで春の訪れを教えてくれる南寄りの風が、「春一番」。
しかし、春一番が吹いたあとも、強めの南寄りの風は何度か吹きます。

それって「春二番」? それとも「春三番」??

いえいえ、このような風は全部ひっくるめて「春疾風(はるはやて)」と呼ぶんです。

春疾風は、春に日本海側を西から東へと通過する低気圧に伴って吹く南寄りの風のことで、俳句の季語のひとつです。

なんとなくワクワクとした印象のあるこの言葉ですが、春疾風をもたらす低気圧自体は決して侮れません。ときには「爆弾低気圧」と呼ばれるほど発達することもあるからです。

爆弾低気圧とは、ざっくりというと、中心の気圧が急激に低下する温帯低気圧のことです(ちなみに、温帯低気圧とは、温帯地方で発生する、冷たい空気と温かい空気が混ざることによってできる低気圧のこと。天気予報で「低気圧」というのは温帯低気圧のことを指します)。

気象庁の使う正式な気象用語ではないのですが、テレビなどのマスメディアでよく使われるため、聞いたことのある人もいるのではないでしょうか。

温帯低気圧という言葉はのどかな印象があるかもしれませんが、爆弾低気圧と呼ばれるほど発達すると、まったくそんなことはありません。天気図を見ると、爆弾低気圧の等圧線はグルングルンに混みあっていて、まるで台風のよう。等圧線が狭ければ狭いほど風は強く吹くので、台風並みの強い風が吹くことだってあります。実際に爆弾低気圧によって高波や船の転覆、局地的な大雪など、過去に数々の災害がもたらされているのです。

でも、爆弾低気圧は台風ではありません。台風は熱帯地方で発生する、熱い空気だけでできた「熱帯低気圧」。暖かい空気と冷たい空気の混ざった「温帯低気圧」とは構造が違うのです。

台風は、夏から秋にかけて日本を襲う嵐ですが、爆弾低気圧はおもに冬から春にかけて日本を襲う嵐といえます。爆弾低気圧は台風ほど知名度はないですし、台風のように何日も前から「そろそろ来るぞ…来るぞ…」と覚悟できないので、つい油断してしまいがちです。しかし、急に発達することもあってかなり危険な存在なのです。

冬から春への境目であるこの時期、低気圧の通過に伴って暖かい春疾風が吹いたあとは、また冷たい冬のような気温に戻ります。しかし、春疾風が繰り返し吹くことで、次第に暖かくなっていき、春本番を迎えます。

さあ、あと何回吹けば本格的な春が訪れるのでしょうか。

この記事をシェアする
  • twitter
  • facebook
  • B!
  • LINE

今井明子

サイエンスライター・気象予報士
兵庫県出身、神奈川県在住。好きな季節はアウトドア・行楽シーズンまっさかりの初夏。大学時代はフィギュアスケート部に所属。鯉のいる池やレトロ建築をめぐって旅行・散歩するのが好き。

今井明子公式ホームページ

関連する記事

カテゴリ