菜種梅雨なたねづゆ

季語 2020.03.24

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こんにちは。気象予報士の今井明子です。

そろそろ南の方から桜の便りが聞こえてくる季節です。菜の花も咲き始め、歩いていると陽だまりのような温かい香りが鼻をくすぐります。

さあ、ようやく春本番! 分厚いコートはクリーニングに出してしまおう!

そう思った矢先、長い雨が続いて寒い日に逆戻り…。つい油断して風邪を引いてしまう人も多いのではないでしょうか。
まったく、春の訪れは一筋縄にはいかないものですね。

この時期に続く長雨のことを、「菜種梅雨(なたねづゆ)」といいます。ちょうど菜の花が咲く季節に降る長雨なので、このように呼ばれているのです。

この時期の天気図を見ると、日本付近にまるで梅雨のような停滞前線があります。このせいで、長雨が続くのです。

出典:気象庁ホームページ(https://www.jma.go.jp/jp/g3/)

ただ、6月ごろの梅雨とは違い、雨の期間はそう長くなく、長くても1週間程度です。また、雨もしとしとと静かに降るような感じです。

菜種梅雨は「春の長雨」や「春雨」とも呼ばれています。
そういえば、春雨と呼ばれる食べ物もありますね。なぜ、あのつるつるした食べ物が春雨と呼ばれるのかは諸説あり、その透明な長い姿が“春雨”っぽいからという説もあれば、小さな穴に生地を通す製造過程が“春雨”のようだからという説もあります。
いずれにせよ、中国由来の食材ではあるのですが、中国では「粉条(フェンティヤオ)」や「粉絲(フェンス―)」などと呼ばれており、「春雨」という呼び名は日本独自のもののようです。

さて、食べ物から再び気象現象の話に戻りましょう。

菜種梅雨はなぜ、起こるのでしょうか。

それはこの時期がまさに、季節の変わり目だからです。これから徐々に、南にある初夏の空気を持つ高気圧の勢力が強まってきますが、まだまだ冬の冷たい空気を持つシベリア高気圧は北の大地でくすぶり続けています。そして時折勢力を盛り返すと、南の高気圧とぶつかるところに停滞前線ができ、おもに東日本や西日本の太平洋側が長雨となるのです。

この時期、前線の北にある高気圧は冬の冷たい空気で構成されています。なので、菜種梅雨の雨はとても冷たく、ときには雪が降ることもあります。

花が咲いたからといって決して油断できないのです。

ちなみに、この菜種梅雨ですが、「催花雨(さいかう)」という別名もあります。桜や菜の花など、さまざまな花が咲くのを促す雨というわけです。また、「催花」という言葉は「菜花」と同じ読み方です。ですから、「菜種梅雨」という言葉は、「さいかう」という呼び方から来たという説もあるようです。

美しい花を咲かすためには、多少の試練は必要…。菜種梅雨が来るたびに、そんなことを考えてしまいます。

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今井明子

サイエンスライター・気象予報士
兵庫県出身、神奈川県在住。好きな季節はアウトドア・行楽シーズンまっさかりの初夏。大学時代はフィギュアスケート部に所属。鯉のいる池やレトロ建築をめぐって旅行・散歩するのが好き。

今井明子公式ホームページ

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