こんにちは。気象予報士の今井明子です。
晩夏から秋にかけて頻繁にやってくる厄介もの。それは台風です。
台風は昔は「野分(のわき)」と呼ばれ、古典文学にもしばしば登場してきました。
枕草子には「野分のまたの日こそ、いみじうあはれにをかしけれ(台風一過の日にはしみじみとした趣があっておもしろい)」という記述がありますし、源氏物語にも「野分」という名の帖があって、台風が通過するときの様子が詳しく描写されています。

昔は今のように進路予報などなかったので、台風というものはいきなりやってきて、さんざん周囲を荒らしまわったあとに景色を一変させる存在でした。きっとその訪れは今よりもずっと大きな驚きを持って受け止められていたのではないでしょうか。

台風は独特な形をしています。大きな渦巻型で、発達した台風には「目」と呼ばれる穴がぽっかりとあいています。目の周りは「壁雲」と呼ばれる発達した積乱雲の塊があり、ここの風雨が非常に強くなっています。しかし、目の中は一転しておだやかな天気になります。
皆さんは、台風の目の中に入ったことはあるでしょうか。私は偶然入ってしまったことがあります。台風の目の中というのは、晴天がのぞくと思っている人が多いと思います。実をいうと私もそう思っていました。しかし、実際に私が入ったときは、まったくそんなことはありませんでした。空を見上げると曇り空。雨は傘がいらない程度にポツポツと降っており、風はほとんどなくて湿気がむわっとまとわりつくような感じです。
残念ながら、想像していたほど爽やかではなかったですね。

台風が通過した後は一転してとても暑くなることが多いです。
これはなぜかというと、フェーン現象がよく起こるからです。フェーン現象というのは、理科の授業で習った人も多いと思うのですが、湿った風が山を越えて吹き降りるときに大きく気温が上昇する現象です。台風は暖かくて湿った空気の塊なので、フェーン現象が起こりやすいのです。

また、台風は北上すると「温帯低気圧に変化しました」といわれることがあります。「熱帯」より「温帯」のほうがなんだか穏やかそうな印象を受けるので安心したくなりますが、油断は禁物です。実は「温帯低気圧に変化した」というのは、「熱帯の高温多湿な空気だけで構成されていた台風が、北上して冷たい空気と出会って構造が変化しました」という意味です。風が弱まることは多いものの、ときには再び強まったり、強い風の吹く範囲が広くなったりする可能性もあるのです。

秋の風物詩である台風。たくさんの災害をもたらし、厄介な印象がありますが、実は台風が訪れることで国土にたくさんの雨をもたらし、海がかきまぜられて生態系の維持に貢献するという側面もあります。古典文学の「野分」の描写が必ずしも否定的な印象を受けないのも、そういった台風のもたらす恵みを感じていたからなのかもしれませんね。

今井明子
サイエンスライター・気象予報士
兵庫県出身、神奈川県在住。好きな季節はアウトドア・行楽シーズンまっさかりの初夏。大学時代はフィギュアスケート部に所属。鯉のいる池やレトロ建築をめぐって旅行・散歩するのが好き。
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