夏落葉なつおちば

季語 2022.05.12

この記事を
シェアする
  • twitter
  • facebook
  • B!
  • LINE

こんにちは。巫女ライターの紺野うみです。

早くも夏日の気候だった先日、公園を歩いていた時に、ふと足元を見るとたくさんの落ち葉に気がつきました。落とし主を探して見上げると、どうやら楠(クスノキ)の葉っぱのようです。
秋でもないのに……? 落ちている葉の多くはやわらかな黄色や赤色に紅葉しているのですが、まだツヤがあって、とても枯葉とは思えないほど元気なように見えました。

気になって調べてみると、初夏の落葉は、一年中枯れることなく緑の葉をつけている楠や松などの「常緑樹」という樹木にとって、ごく自然な営みなのだとか。逆に、秋に落葉するのは銀杏や紅葉などの「落葉樹」という種類です。私たちにとっては、落ち葉と言えばこちらの方がなじみ深い光景ですよね。

そして、夏に葉が落ちる情景を表現しているのが、今回ご紹介する「夏落葉」という言葉です。同じ意味で「常磐木落葉(ときわぎおちば)」という季語もあり、いずれも初夏の句に用いられています。

それにしても、どうして初夏に「落葉」が起きるのか、皆様はご存知でしょうか?
あらゆる植物が、夏に向けて元気に色濃くなってゆく中で、葉っぱを落としてしまうなんて……。そのまま枯れてしまうのではないかと、心配になる方もいるかもしれません。実は、これも植物が確実に命を繋いでいくための、必要な工夫だったのです。

落葉樹は、秋から冬にかけて葉を落とすことで、春までの間は自らの力を蓄えながら厳しい冬を乗り越えています。しかし、常緑樹は一年中瑞々しい葉を保つために、力を使い続けなければなりません。そのため、新たな新芽が芽吹く春から夏にかけての時期に、古い葉っぱは潔く落ちてゆき、入れ替わるように新しい葉が勢いよく萌えてゆくのだとか。

たしかに、観葉植物を育てていても、少しでも元気のなくなった葉っぱや枝などがあれば、それを早めに断ち切ることで新たな芽や葉っぱにエネルギーが集中し、より長持ちするものでした。植物たちは、自然の営みの中で命を繋いでゆくために、それぞれが一番良い方法を知っていて、確実に実践しているのですね。

そういえば、人間の世界にも「世代交代」という言葉があります。いつまでも適切に世代交代が行われない環境では、若い力が上手く育たなかったり、今いる場所から別の場所に飛び出していく人が増えてしまったり――ということが起こります。
大切なのは、いかにしてバトンを繋いでいくことができるか。人類規模で考えるならば、子どもたちが生きる未来に、いくつもの「希望の芽」を育てていけるように。
誰もが未来に向けてのことを真剣に考えながら、自らの行動や選択をしていかなくては、健全に命を繋いでいくことが難しくなっていってしまうのではないでしょうか。

物言わぬ植物の生き様にも、私たちは何か、大切なことを教えてもらっているような気がしてなりません。潔く散った美しさの残る夏落葉の上に、日の光を受けて輝く若葉が生い茂る光景は、私の心の奥にも確かに刻み込まれたように感じました。

この記事をシェアする
  • twitter
  • facebook
  • B!
  • LINE

紺野うみ

巫女ライター・神職見習い
東京出身、東京在住。好きな季節は、春。生き物たちが元気に動き出す、希望の季節。好きなことは、ものを書くこと、神社めぐり、自然散策。専門分野は神社・神道・生き方・心・自己分析に関する執筆活動。平日はライター、休日は巫女として神社で奉職中。

  • instagram
  • facebook
  • note

紺野 うみ|オフィシャルサイト

関連する記事

カテゴリ