こんにちは。僧侶でライターの小島杏子です。
生活のなかに息づく、仏教と暦のことについてお話します。
今回は、奈良県の東大寺で行われる修二会・お水取りのお話。
数年前の寒い朝。
奈良の大学を受験する妹に付き添って、降り立った近鉄奈良駅。吸い込んだ冷たい空気に、鼻の奥がツンとする感触。体の先っぽという先っぽが凍てつくような寒さをよく覚えています。
妹は無事大学に合格したため、その後奈良には何度も訪れることになりました。彼女が通った大学のキャンパスを初めて訪ねたとき、鹿と学生が共生する風景に驚いたものです。
当然のように鹿がキャンパスのなかをうろつき、木々の下で雨をしのぎ、そのへんの草を食んでいるのに、鹿も人を気にしなければ、学生の方も鹿を気にしない。お互いを風景だと感じているようでした。

この大学に限らず、奈良という街にはどこか力の抜けた雰囲気があるような気がします。なんというか、「そっけないやさしさ」とでもいうべき、心地よい距離感を感じる街。
距離感があるのは人間や動物だけではなく、観光名所間にも物理的な距離があり、名所の交通アクセスはあまり良くない。しかし、近鉄奈良駅周辺エリアの各名所ならば徒歩や巡回バスで気軽にめぐることができます。奈良公園など駅を出てすぐ目の前です
近鉄奈良駅周辺の寺社は、そのどれもが名所中の名所だけれど、今回のテーマは修二会・お水取りなのだから、もちろん注目するのは東大寺。

修二会、お水取り、と聞くと多くの人は、東大寺二月堂に巨大な松明が掲げられる有名なシーンを思い浮かべるかもしれません。しかし、実はあれは修二会のメインイベントではありません。
そもそも修二会は、東大寺の専売特許のように思いがちですが、これは各地のお寺でも営まれている行事。
日本のお正月には「修正会」という法要が行われるのですが、その「修正会」の次の行事なので、「修二会」と名付けられているとか。仏教のふるさと、インドのお正月の時期に合わせて、このタイミングで行われる法要です。
東大寺二月堂では、旧暦の2月、現在では3月1日から15日にかけて修二会が行われています。東大寺の修二会は正式名称を、「十一面悔過(じゅういちめんけか)」といい、二月堂のご本尊である十一面観世音菩薩の前で、日々の暮らしで犯してきた多くの罪を懺悔する法要です。
期間中は昼夜六時(昼3回、夜3回の計6回)の法要(未公開)が毎日執り行われます。練行衆(れんぎょうしゅう)と呼ばれる僧侶たちが法要のためにお堂へと向かうのですが、夜の法要では足元が暗い。その道明かりとして灯されるのが、あの有名なお松明です。

そしていよいよお水取り。お水取りとは、3月12日の深夜、正確には13日の午前1時ころに若狭井という井戸からお香水(こうずい)と呼ばれる水を汲みあげる儀式のことをいいます。儀式は、法要の途中で行われます。
僧侶たちは時間になると法要を中断し、二月堂を出て、井戸のある建物まで歩きます。建物の内部は、役の者以外は入ることも中を伺うこともできません。汲み上げられたお香水は二月堂へと運ばれます。これを三往復したところで、二月堂の内陣(ご本尊が御安置してあるお堂奥側の空間)に無事お香水が納められたことになります。そして、中断されていた法要が再開されるのです。
ちなみに、お水取りは一日限り、しかも未公開の儀式ですが、お松明の方は修二会の期間中毎日見ることができます。
しかしメディアは12日だけを大々的に報道してしまう。その影響か、松明のシーンは12日しか見られないと思い込んでいる人が多いらしいのです。よって「12日は大混雑するので、松明が見られない可能性もあるよ!」と東大寺公式サイトにも載っています。

以上、かなり簡単に東大寺の修二会とお水取りについてご紹介しました。しかし、当然ながら仏教行事というのは、もっともっと奥が深く、簡単にその重要さを飲み込むのは難しいものです。・・・が、奥深さをいつもみんなが完璧にわかっていなければならない、というわけじゃないと、私は思うのです。
寺社仏閣のパンフレットや雑誌の紹介記事を読んでも、そこに書かれてある、寺社の縁起や年中行事の紹介って、正直よくわからない。 専門用語は盛りだくさんだし、限られた紙面に要約しまくって書いてあるのだから、わからなくて当然です。
なので、こういうのは、よくわからないけどとりあえず行ってみる、というのが大事。そうすればちょっとだけお寺や仏教が自分の暮らしに近づきます。さらにもうちょっと奥深いところへ足を踏み入れても良し、踏み入れなくても良し。近づいたり、近づかなかったり・・・ほど良い距離感で付き合っていけば大丈夫。
なにを理解しているかよりも、なにを受け取るかが大事です。
詳しい知識も良いけれど、世の中には自分の知らないことがたくさんあるのだなぁと気づくことの方がきっと大事。その気づきは、私を少しだけ謙虚に、誠実にしてくれるような気がします。
というわけで、とりあえず!奈良ののんびりした空気を吸って、寒さに震えながら修二会を見る。そういう3月のおでかけはいかがでしょうか?
タイトル画像:Photo by Gilles Desjardins on Unsplash

小島杏子
僧侶・ライター
広島県尾道市出身。冬の風景が好きだけど、寒いのは苦手なので、暖かい部屋のなかから寒そうな外を眺めていたい。好きなのは、アイスランド、ウイスキー、本と猫、海辺。
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