昼間の熱気をまとったまま、夜の帳をおろした京都の街。夏は暑く冬は底冷えのする盆地を囲む山々には、その夜、赤い灯がともる。「大」「妙・法」「船形」「鳥居形」。毎年8月16日(かつては7月)、お盆がおわる夜、人々はその灯を遠望する。
こんにちは。僧侶でライターの小島杏子です。
本日のテーマは京都五山の送り火です。

お盆のはじめに迎え火を焚いて迎え入れた精霊を、お盆の終わりに送り返すために焚くのが送り火です。送り火そのものはさまざまな形態や規模で日本各地に見られる習慣ですが、そのなかでも特に有名なのが京都の五山の送り火。
五山の送り火の起源には諸説あり、始まった時期も定かではありません。最も有名な、東山方面の如意ヶ岳にともる大文字の起源には、平安時代初期、室町時代中期、江戸時代初期など全く異なる説が数多く存在するほど。また、「大」「大(左大文字)」「妙・法」「船形」「鳥居形」はそれぞれ始まったタイミングや背景が異なると言われます。


なぜ山で送り火を焚くのかについてですが、これは山が亡くなった方々のいる世界に近い場所であると認識されていたからではないかと考えられています。とはいえ、山にあれだけ大きな文字を浮かび上がらせるのには相当の準備が必要です。


送り火に使われる赤松は、年が明けたばかりの2月には選定がはじまるのだそうです。樹齢30〜40年のものを切り出して、しっかりと乾燥させたのち、春には山頂の倉庫まで手作業で運び入れます。ほかにも様々な段取りが保存会やボランティア、協力業者の方々によって行われているのだとか。祇園祭とならび、京都の夏を象徴するこの伝統的な行事は、こうして民間の有志の方々の手によって護持されているのです。


私は学生時代、8年間を京都で過ごしましたが、五山の送り火を見たのはたった一度だけでした。なぜならお盆のあいだはかならず実家に帰省していたからです。そこで京都生まれ京都育ちの友人に尋ねてみたところ、「いまでこそ京都の五山の送り火は観光客が多く訪れる行事のひとつだけれど、以前はそんなことはなかったと思う」と話してくれました。
彼女の家ではお盆期間中仏さまにお供えする献立が決まっていて、白玉でつくった迎え団子、送り団子、ささげと茄子のおひたし、あらめとお揚げの炊いたん、15日には仏さまにお供えした白むしと呼ばれる蒸した餅米を蓮の葉に包んだお弁当をお供えするのだそうです。そして、お盆が明ける16日には親戚で集いごちそうを食べ、日が暮れるとみんなで歩いて送り火を見にいくのが恒例の過ごし方なのだとか。
このように彼女にとって五山の送り火を見にいくことはお盆の法事の一部という認識だったため、遠くから観光の方々が送り火を見にくることを最初はとても不思議に思ったそうです。

一方、お寺育ちの私はといえば、お盆の過ごし方に特別なならわしはなく、ただただ慌ただしさと暑さのなかを駆け抜けるしんどい時期……という印象しかありませんでした。16日には近くの海岸で夏祭りがあって、綺麗な花火があがり、たくさんの出店も並ぶのですが、お盆を終えた両親はくたくたで、幼い私がその夏祭りに連れていってもらうことはほとんどありませんでした。なので私の8月16日といえば、二階の部屋の窓から遠くにあがる花火を蚊に刺されながら眺めていたことを思い出すのです。
それぞれ、人や家の数だけお盆の過ごし方があるのだろうなと思います。

私たちの日々は、受け入れられること、受け入れられないこと、その判断すらつかないことで溢れています。お盆というのは、そういった自分の内側に目を向けやすい時間だったのではないかと私は思っています。
亡くなった方をしのび、深い内省の時間を過ごしたお盆。そのおわりを感じつつ、日常に戻っていくときに、夜の暗闇にともるひとかたまりの灯りを眺める。なんだかそれは生きるうえでのどうしようもなさを引き受けて、まぁ明日からもなんとかやっていくか、という穏やかなけじめの時間にも思えます。

みなさんはこのお盆をどのようにお過ごしになったのでしょうか。そしてお盆のおわりをどんな気持ちで迎えておられるのでしょうか。
一人で過ごす人にも、近しい人と一緒に過ごす人にも、こころおだやかな時間が少しでも訪れていればいいなと思っています。


小島杏子
僧侶・ライター
広島県尾道市出身。冬の風景が好きだけど、寒いのは苦手なので、暖かい部屋のなかから寒そうな外を眺めていたい。好きなのは、アイスランド、ウイスキー、本と猫、海辺。
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