こんにちは。巫女ライターの紺野うみです。
日本の季節を表現する言葉には「五節句」や「雑節」、「二十四節気」に「七十二候」といった、中国から伝わり日本独自の進化を経て、ゆっくりと定着していったものがたくさんあります。
特に「七十二候」は、たとえば「東風解凍(はるかぜこおりをとく)」「虹始見(にじはじめてあらわる)」など、まるで詩の一節のような美しい表現が印象的です。
たった数文字の漢字が織りなす言葉から、季節を手に取るように感じることができる、素晴らしい文化。言葉を聞いただけでも、なんとなく自然や生き物の姿が想像できてしまいますよね。
今回ご紹介する「獺祭(だっさい)」とは、そんな昔の七十二候(※現在の七十二候は変化しています)のひとつ。
二十四節気の中の「雨水」を、5日ずつ初候・次候・末候に分けたうちの「初候」――すなわち、2月19日~23日にあたり、「獺魚祭(だつうおをまつる)」という表現を略して生まれた言葉です。
同じ言葉が日本酒の銘柄でも有名ですが、その本来の意味をご存知の方は、少ないのではないでしょうか。
「獺」とは、動物のカワウソ。カワウソは、捕らえた魚を川辺に並べる習性があることから、その姿がまるで供物を並べて神様やご先祖様をお祀りしているさまに似ているので、このような言葉が生まれました。
確かに、神社でも神様へのお供え物は、私たちがいただくものを大切に美しく並べて、先に神様へ召し上がっていただきます。
もちろん、カワウソが何を思って魚を並べているのかはわかりませんが、愛らしい姿で一生懸命川岸に魚を並べている様子を思い描くと、なんだか微笑ましい気持ちになりますね。
ちなみに、この言葉が転じて、人間がもの書くときに、さまざまな書物や文献を並べている様子のことも「獺祭」と表現することがあります。
かく言う私もひとりの物書きなので、執筆にあたっていくつもの本や辞書などを開いて、机の上が大賑わいになることも少なくありません。
妙に納得させられながら、今後はそんな折に、「あぁ、これが“獺祭”かぁ」と思い出してみることにしたいです。
思えば、暦を表現する言葉は、私たちの想像力をやさしく、時に面白おかしく膨らませてくれるようなものが多い気がします。
季節の様子を身近な暮らしと重ね合わせることは、私たち人間も多くの動物や植物と同じように、自然の中で生かされていることを思い出すきっかけにもなるのではないでしょうか。
巡る季節の中を生きていくとき、このような言葉に、そっと触れてみるのは素敵なことですね。
紺野うみ
巫女ライター・神職見習い
東京出身、東京在住。好きな季節は、春。生き物たちが元気に動き出す、希望の季節。好きなことは、ものを書くこと、神社めぐり、自然散策。専門分野は神社・神道・生き方・心・自己分析に関する執筆活動。平日はライター、休日は巫女として神社で奉職中。
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