こんにちは。巫女ライターの紺野うみです。
本日、令和4年の6月29日は、旧暦で言うところの6月1日にあたる日。本格的な夏を目の前にしたこの日は「氷の朔日(ついたち)」と呼ばれ、古く宮中から始まり広がった、季節を感じさせる年中行事が行われます。
夏の暑さが特に感じられるようになると、私たちはやっぱり「冷たいもの」が恋しくなるものですよね。
暑さをしのぐため、現代であればアイスクリームや氷をたっぷり浮かべた飲み物などを、自由に口にすることができます。
しかし、冷蔵庫はもちろん冷凍庫など存在しなかった昔、人々は冬の間にできた氷や降り積もった雪を、大切に「氷室(ひむろ)」という場所に保存していました。一年を通してひんやりとした涼しさを保てる場所に作られた、文字通り「氷専用のお部屋」です。
その歴史は、遡ると最古の歴史書と言われる『日本書紀』にも登場するほど古いもの。そのため、「氷室祭」というお祭りを行っている神社もあります。
宮中御用達の氷室は、夏まで氷を保存できるよう日本各地に作られ、氷室を開く日であった「氷の朔日」に大切に届けられたと言います。
その氷は宮中で「氷室の節会(せちえ)」という儀式に用いられ、献上された氷を臣下とともに食すものでした。
宮中以外にも、幕府に献上されていたという記録もあるように、当時の氷は大変な貴重品。少しでも温度が上がれば、すぐに溶けだしてしまいますから、管理や輸送の大変さも想像に難くありません。
当然、一般庶民にはなかなか口にできるものではなく、人々は「何か、氷に似た食べ物はないだろうか」と考えました。
そこで、お正月の鏡餅を細かく砕き乾燥させて作った「氷餅(こおりもち)」や「凍み餅」を、この日に合わせて氷の代わりに食べるようになったのだとか。
小さく砕いたお餅は、見た目が鬼の牙のようにも見えるということから、6月1日は別名「鬼の朔日」とも言われています。
お餅となると「涼しさ」とはかけ離れているような気がしますが、その「がりがり」とした歯ごたえのある食感から、昔の人は想像力を膨らませ「氷」を思い浮かべていたのかもしれませんね。
その他にも、地域によってはあられや煎り豆を「歯固め」として食べることで歯が丈夫になり、長生きできるよう無病息災を祈った文化も伝わっています。
文明が進んで、今では当たり前のように誰もが口にできるようになっている氷ですが、夏はことさらその存在にありがたみを感じるものです。
人間は口にするもの、手に触れるものなど――五感を使って「季節」を感じる生活に、大きな意味と幸福を感じる生き物なのではないでしょうか。
「幸せな暮らし」というものを考えたとき、季節の移ろいを心と体でしっかりと受け止めながら、身近なものや工夫で得られる幸福を、丁寧に受け止めることなのではないかと感じます。
今年も蒸し暑い日が増えてきましたが、こんな時こそさまざまな「冷たいもの」を楽しみながら、涼を感じて乗り切っていきましょう。
紺野うみ
巫女ライター・神職見習い
東京出身、東京在住。好きな季節は、春。生き物たちが元気に動き出す、希望の季節。好きなことは、ものを書くこと、神社めぐり、自然散策。専門分野は神社・神道・生き方・心・自己分析に関する執筆活動。平日はライター、休日は巫女として神社で奉職中。
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