梅見月うめみづき

暦とならわし 2023.02.01

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みなさんは最近、どんな梅を見ましたか?
今日は梅にまつわる言葉をお届けします。

梅暦(うめごよみ)

梅が咲いたのを見て、春がきたのを知ることを「梅暦」といいます。これは人それぞれに春の訪れに気づく特別な瞬間がある、ということでもあります。出先でふと気づくこともありますし、花より先に鼻をくすぐるほのかな香りに気づき、きょろきょろと梅の在処を探すような年もあり、梅の咲き加減も、場所も、毎年まったく同じということはなく、その年ごとに異なる出会いの瞬間があるかと思います。今年、出会った梅はどこで、そしてどんな梅だったでしょうか。

探梅(たんばい)

「探梅」という季語は立春前の早咲きの梅を探して歩くことをさす言葉です。立春をすぎると梅はもはや探すまでもなく、あちこちでほころび始めます。

梅ふふむ

「ふふむ」は含むの古語で、蕾がふくらむこと。または鳥などが口にものを含んで、頬をふくらませた状態のこと。梅のつぼみは赤く、濃く、ひらいたときには白や淡紅色に変わります。「ふふむ」は内側にひめた力を感じる言葉です。

笑い梅

梅の中に三日月を描いたこの意匠は通称、笑い梅。正式には光琳梅といいます。梅がほころび、それをみる人の顔も思わずほころぶ。そんなイメージが重なってみえる光琳の意匠です。「ほころぶ」という言葉は隠れていたものが突然、外に顕れることをさしますので、突然、鳴いた鳥のさえずりもほころぶといいます。「笑顔」もまさに内側にあるものが、思わず外にこぼれることですね。

写真提供:高月美樹

香雪(こうせつ)

梅は香りがいいことから「香散見草(かざみぐさ)」などさまざまな呼び名があり、梅に留まるウグイスを「匂い鳥」と呼んだりします。梅がほころんだ後、必ず幾度か、雪が降ります。そのため梅は「香雪」といい、その逆に雪のことは「不香の花」と呼びます。雪は匂わない花です。「雪に梅」の姿は日本の代表的な景物として多くの絵に描かれてきました。

雪をかぶって、ちりちりと縮み上がったような梅の花にも「花の兄」としての風格と、耐え忍ぶ強さを感じます。ちぢんだ梅がまた開き、満開になる姿も毎年、見られるうれしい景物です。

梅遠近(うめおちこち)

うめおちこち。梅が満開になった頃の、車窓の景色を私は毎年、楽しみにしています。電車に乗って窓を眺めていると、あっちにもこっちにも、遠くにも近くにも、紅白の梅が面白いようによく見えます。白、白、紅、紅、白、紅、白。花の咲く時期にしかわかりませんが、紅白が並んで植えられていることが案外多いことに気づきますし、日本にはこんなにもたくさんの梅の木が植えられ、愛されているのだと、毎年のことながら感動します。

梅遠近南すべく北すべく 蕪村

あっちもこっちも、北にいっても南にいっても梅の見頃だ、と詠んだ蕪村の代表句です。遠近(おちこち)はお菓子の名前にもよく使われていますが、まさにこういう風景をいうのだなと思ったりします。青い空の下に次々と現れる紅白を眺めるとき、日本の大地全体が祝福されているような、おおらかで和やかな気持ちになります。

梅見月(うめみづき)

梅の種類は、何種類あると思いますか? 梅の品種はなんと300種以上に及びます。最初に中国から入ってきたのは白梅で、万葉集に詠まれていた梅は白梅だったそうですが、その後、紅梅や淡いピンクなど、さまざまな品種が生まれました。梅干しに使われる豊後はあんずとの交配種です。

うちの近所で見られる梅はこんな感じです。色図鑑のようにバラエティ豊かです。

写真提供:高月美樹
写真提供:高月美樹
写真提供:高月美樹
写真提供:高月美樹

あまりに多いがゆえに、「梅」とたった二文字で総称され、あまり区別されることがありませんが、一重あり、八重あり、小輪あり、大輪あり、咲く時期もさまざまです。早春に咲いて散っていく梅もあれば、晩春にようやく咲き出す遅咲きの梅もあります。

梅見月は旧暦二月の異名で、西暦でいうと3月頃。実際に2月中旬から3月頃に見頃を迎える梅もたくさんありますので、梅見の本番はまだこれからです。微妙な梅の違いをぜひ見てみてください。

月に梅

春もややけしきととのう梅と月 芭蕉

ところで、梅の品種には月に関係する名前がたくさんあります。

満月、月の桂、月世界、月影(つきかげ)、月宮殿(げっきゅうでん)、田毎(たごと)の月、酔月(すいげつ)、滄溟(そうめい)の月など。滄溟は青く広い海、大海原のことですので、海に上がる白い月のような梅という意味で、壮大なイメージ通りの大輪です。

大空は梅のにほひに霞みつつ 曇りもはてぬ春の夜の月 定家

「月に梅」は多くの歌人が詠んできた題材で、夜の梅は月の光に照らされて白く浮かびあがり、幻想的です。梅の香りは甘く、上品。夜はその香りが一層、引き立ちます。

写真提供:高月美樹

ある夜、梅の花たちが申し合わせたように一斉に強い香りを放っていて、その強さに驚いたことがあります。翌日にいってみると、もうそれほどでもなくなっていました。一瞬の夢のような夜でした。昔の人も同じような体験をしていたのでしょう。香りを訪ねる歌が多く残されています。

月夜にはそれとも見えず梅の花 香をたづねてぞしるべかりける 凡河内躬恒 

「夜の梅」といえば、虎屋の羊羹で有名ですが、闇に白くボーッと浮かびあがる梅を小豆で表現したロングセラーですね。もう少しあたたかくなってきたら、ぜひ一度、夜の梅見におでかけください。

梅とミツバチ

最後に、梅とミツバチの動画です。ミツバチは梅の花が大好き。梅の花をよく観察していただくと、夢中で蜜を集めるミツバチに出会えます。これはわが家の梅の木で、いい匂いを出す数日、わんさか大勢でやってきます。

文責・高月美樹


高月美樹さんの『和暦日々是好日(2023年版)』

自然や環境に添った暮らしをめざす方々や日本人の風土に根ざした暮らしに関心を持って下さる方々に、「自然のリズムを感じるためのツールになれば」という思いから生まれました。

〈ユーザーの声〉
「装丁、挿絵、すべてが美しく、つい見入ってしまう手帳です。」
「美しく繊細な自然描写に息を飲み、日本古来の慣わしや、宇宙の理を知ることができる素敵なガイド手帖です。」
「美しい挿絵やコラムが散りばめられ、日本人の感性を思い出させてくれる手帳です。」
「自分で気づいて、答え合わせできた時の嬉しさは日々の喜びです。」

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高月美樹

和暦研究家・LUNAWORKS代表 
東京・荻窪在住。和暦手帳『和暦日々是好日』の制作・発行人。好きな季節は清明と白露。『にっぽんの七十二候』『癒しの七十ニャ候』『まいにち暦生活』『にっぽんのいろ図鑑』婦人画報『和ダイアリー』監修。趣味は群馬県川場村での田んぼ生活、植物と虫の生態系、ミツバチ研究など。

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