かさねの色目 花薄はなすすき

にっぽんのいろ 2020.09.04

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和暦研究家の高月美樹です。

処暑を迎え、にわかに虫の音が高まってきましたが、みなさまいかがおすごしでしょうか。

君が手もまじるなるべし花芒 去来

私が大好きな句です。味わい深く、毎年、すすきを見る度に思い出す句です。すすきの穂が手招きしているような、さようならと手を振っているような。

何度も何度も、上下に揺れるその姿は、生き別れた大切な人、亡き人の幻の手のようでもありますし、土地の神がまたおいで、と優しく挨拶してくれているようでもあります。揺れるものには霊力があるとされてきたのも、そこに見えない不思議な存在や力を感じたからかもしれません。

陽を浴びるすすきの穂は白く、つやつやとして、眩しいほどの明るさですが、ゆらゆらと一斉に空を泳ぐその姿はどこか寂寞として、秋のもの悲しさを誘います。すすきは薄、または芒と書き、秋の七草のひとつ、尾花でもあります。

かさねの色目の「花薄」は、表は白、裏は薄縹(うすはなだ)です。

真っ白なすすきと爽やかな秋の空。裏の青は葉の色とされていますが、私は秋の空を想像します。薄青く、爽やかな空の色。ひんやりとした初秋の空気は、まさに爽やかです。

「爽やか」という言葉は近年、初夏でも、夏でも、年中使われていますが、本来は秋の季語です。乾いた秋風が吹く、さっぱりした気持ちよさをいいます。

夏の間の蒸し暑さがなくなり、すべてが鎮静し、余計なものが削ぎ落されたような静けさをともなっています。心がすっと落ち着くのが、本当の「爽やかさ」なのかもしれません。夏の狂騒が終わり、内面が整っていくときでもあります。

「爽やか」の派生語として、爽涼(そうりょう)、秋爽(しゅうそう)という言い方もあります。夏を無事に過ごせたことへの安堵もあり、昔の人は、この清々しさをことのほか尊んできたのではないかと想像します。

初秋は空が美しい季節でもあり、日々変わる夕焼けが、あすの天気を予報するかのように刻々と変わって見飽きません。

台風の季節でもあり、台風一過のあとの清々しさは「野分晴れ」として、多く歌に詠まれています。草が倒れるようになぎ倒され、激しい風の爪痕を残す荒涼感と、清々しく吹き払われたような美しさが同時にあり、すべてを飲みこんで流れてゆく、生々流転のもののあはれを感じさせます。

初秋の今、真っ白なすすきの穂と、さわやかな秋の空を眺めてみてください。

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高月美樹

和暦研究家・LUNAWORKS代表 
東京生まれ、荻窪在住。趣味は田んぼ生活、植物と虫の生態系、ミツバチ研究。地球の呼吸を感じるための手帳『和暦日々是好日』の編集・発行人。『にっぽんの七十二候』『癒しの七十ニャ候』『まいにち暦生活』『にっぽんのいろ図鑑』監修。NHKオンライン講座講師。

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