かさねの色目 枯野 かれの

にっぽんのいろ 2020.12.14

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冬は寒い、暗いというイメージがありますが、冬は案外、明るい季節でもあります。そのことを端的に感じさせてくれるのが枯野です。

江戸の人々は四季を通じて行楽にでかけましたが、冬の楽しみといえば、枯野見(かれのみ)でした。今日は俳句とともにお届けします。

遠山に日の当りたる枯野かな 高浜虚子

物見遊山(ものみゆさん)とは本来、季節に合わせ、山野を見物し、遊び歩くことで、お金のかからない最高のリクリエーションでした。昔の人はわざわざ遠くまで足を運んで、枯野を鑑賞しに行ったようです。一口に枯野といっても、場所によって草の色や醸し出される風情もさまざま。枯野マニアはたくさんいたらしく、あそこがよかった、ここがよかったと評判になり、枯野の名所もありました。

これは今では失われてしまった感性かもしれませんが、時を超えて、またあらためて「枯野を愛す」、そんな人が増えたら面白いですね。冬の野は何もかも枯れ果てたようにみえて、数多の種を大地が抱いている姿でもあり、希望の種を宿しているような不思議な明るさがあります。

ひらけた野原をさくさくと歩けば、何かえもいわれぬほどの明るさに包まれて、心も軽くなってきたりします。土も乾燥し、乾いた色合いに変化しています。

空ゆけば十方あかるく枯野黄に 高浜誓子

「枯野道(かれのみち)」も冬の季語です。見晴らしがよく、遠くまでよくみえるので、枯野の中をぽつんと歩く人も絵のような風景になることから、「枯野人(かれのびと)」という季語もあります。

真直に道あらはれて枯野かな 与謝蕪村
行き消えて又行き消えて枯野人 松本たかし

冬は森歩きが楽しい季節でもあります。夏は鬱蒼として暗かった森にも、明るい日差しが差し込んで、歩きやすくなっています。私は冬の明るい森が好きです。冬が深まると枯れ草も枯れ葉も、すっかり色が抜けて、どんどん白っぽくなってきます。

そんな中、枝に一葉だけ鮮やかな緑がついているように見えることがあります。近づいてみると、うす緑が美しいオブジェのような繭。ヤママユガの仲間で、中はもぬけの殻ですが、鮮やかなまま、いつまでもぶらさがっています。

さて、かさねの色目の「枯野」は表が黄、裏が白の枯野色です。乾いた枯れ草と霜なども連想させますが、どこか冬の日向ぼっこのようなあたたかさを感じる配色でもあります。「枯野」には他にもバージョンがあって、表が香色、裏が青のものや、表が黄で裏が薄青のものもあります。冬枯れの景色の中にわずかに残る緑を表したもののように感じます。

ぜひ冬の野原の、すがすがしい明るさを感じてみてください。美しく輝く枯野、静かな枯野、穏やかな枯野。どんな心象が浮かぶでしょうか。

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高月美樹

和暦研究家・LUNAWORKS代表 
東京生まれ、三鷹育ち。好きな季節は、初夏の清和と、胸がキュンとする晩夏。趣味は、田んぼ生活・植物と虫・ミツバチ研究。専門分野は和暦文化。『和暦日々是好日』発行人。

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