染織家の吉岡更紗です。私は京都で200年以上続く染屋「染司よしおか」の六代目で、古法にのっとり、植物を中心とした自然界に存在するもので染色しています。
世界中でも類をみないほど数が多いといわれている日本の色。
その中から、今月は「憲法黒(けんぽうぐろ)」を取り上げたいと思います。

「憲法黒」とは、「憲法茶」ともいわれるやや茶味がかった黒色のことを指します。京都の剣術家、吉岡憲法(吉岡直綱)が広めた色とされています。彼は、室町幕府足利将軍家の兵法師範をつとめ、名声を高めたとされる吉岡流の四代目当主です。
京都の北東、一乗寺にある八大神社境内にある「一乗寺下がり松」で、慶長9年(1604)剣豪宮本武蔵と決闘を行った吉岡一門の1人は彼とも、彼の3人の息子ともいわれています。その戦いの地にあった松の初代は、昭和20年までその地にありましたが、その後ご神木として八大神社境内に大切に祀られています。毎年行われる五月の大祭とお正月の前には注連縄が新調されるのだそうです。

諸説ありますが、この戦いの後、吉岡家は関ヶ原の戦い、大阪冬の陣で豊臣方についたため、敗戦側についたことを恥じて剣を折り、四条西洞院で黒染を得意とする染屋を営むようになったといいます。吉岡家が染屋に転向したのは、李三官という中国出身の門人に染色の心得があったため、とも言われていますが、剣術をたしなむ一門であったため、傷の治療に使われる薬草が、染料となることも知っていて、その知識が生かされたのではないかとも考えられます。
その後、吉岡家の染める黒染の衣装は、堅牢度が高く、しっかり染めているため刀を通しにくいと、巷で流行し大変繁盛したといわれています。暖簾分けという形で分家も沢山でき、「吉岡」という名前は染屋の代名詞でもありました。私共「染司よしおか」の初代も、江戸時代の文化年間にこちらから暖簾分けした吉岡という染屋の一つに丁稚奉公し、独立を許された1人です。

「憲法黒」は当初は、檳榔樹(びんろうじゅ)の実で染められていました。この檳榔樹は、インドから東南アジアの熱帯性で育つヤシ科の木です。日本では生育しないため、奈良時代から輸入されて薬物、香木としても珍重されていました。檳榔樹が非常に手に入りにくく、高価であったため、のちに楊桃(やまもも)で染めるようになったといわれています。これらの染料にはタンニンが含まれていて、鉄分で媒染することによって黒く発色します。


吉岡更紗
染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。
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