染織家の吉岡更紗です。私は、京都で200年以上続く染屋「染司よしおか」の六代目で、いにしえから伝わる技法で、植物を中心とした自然界に存在するもので染色をしています。
世界中でも類をみないほど数が多いといわれている豊かな美しい日本の色。
その中から、今月は「安柘榴色(ざくろいろ)」についてご紹介いたします。

染司よしおかの庭には、染料となる植物や樹木がいくつか植えられています。化学染料で染めることが主流だった時代に、祖父である吉岡常雄が原点に立ち戻ろうと、胡桃(くるみ)や黄檗(きはだ)など、染料となる植物を研究するために植えたものです。庭木の周りを箒で掃きながら、その木々が季節によって移り変わる様子を見るのが日課になっています。梅雨を迎えるこの季節、その木々は青々とした葉を大きく広げています。

その中に、赤く華やかな花が咲く木が2本あるのですが、これが安柘榴(ざくろ)の木です。やがて花が散った後に小さな実がつきはじめ、秋頃にはそれがたわわに大きく実ります。果実の内側に赤い種子がびっしりとついていて、それを食べると甘酸っぱさが口の中に広がります。ビタミンCやクエン酸が含まれているので、今もジュースにしたり、サプリメントにしたりと様々に活用されています。

もともとはペルシャやインドなどが原産で、シルクロードの砂漠を往来する旅人の喉を潤す果実でもありました。また多数の種子が中につまっているところから、豊穣や子孫繁栄の象徴として、ヨーロッパやインド、中国など世界各地でその姿をモチーフとした図柄が絵画や壁紙、染織品などに多く使われていました。染司よしおかでコレクションしている古渡更紗裂にも安柘榴を表しているようなものがあります。

その果実の皮の黄色、やや赤みがかかった色を「安柘榴色」といいます。種子をとった果実の皮を干して乾燥させたものを煎じ、色素を抽出して染められています。ザクロタンニンという色素が含まれていて、やや渋いながらも赤みを帯びた美しい黄色に染まります。秋の黄葉や朽ち葉の様子を表すときに、この安石榴から生み出した色が使われていました。
果皮はその他、駆虫薬として使われたり、歯痛止めや下痢止めにも利用されたりしています。

梅雨の合間に広がる青空に映える赤い花は、やがて実をつけ、その実は意匠として使われ、食用としても薬としても効能があり、色を生み出すこともできる。そのすべてがシルクロードを通って日本に伝わり、今、工房の庭に植えられている。そんなロマンを感じています。

吉岡更紗
染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。
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