染織家の吉岡更紗です。私は、京都で200年以上続く染屋「染司よしおか」の六代目で、いにしえから伝わる技法で、植物を中心とした自然界に存在するもので染色をしています。
世界中でも類をみないほど数が多いといわれている、豊かな美しい日本の色。
その中から、今月は「深紫(こきむらさき)」についてご紹介いたします。

深紫とは、紫草の根である紫根を使って濃く染めた、黒味がかかったような深い紫をさしています。紫草は5月頃から10月にかけて白い花をつける植物ですが、根の表面に紫の色素が含まれていて、そこから紫の色を得ることができます。紫草は、非常にデリケートな植物で、根腐れがしやすいため、火山灰地で栽培するのが良いとされており、私共は大分県竹田市志土知で丁寧に作られている紫草の根を使用しています。毎年11月頃に入ると収穫が始まりますが、長く長くのびた根は隣の根とも絡みあうほどで、綺麗な状態で根を収穫するのも一苦労です。

毎年、丁寧に収穫される様子を現地に伺い拝見していると、いつも『伊勢物語』に遺されている一首を思い出します。
この歌が詠まれた背景は、二人のある姉妹のお話です。一人は身分が低く貧しい人を夫に持っていて、もう一人は高貴な男と結婚していました。身分の低い男を夫に持っている女が、大晦日の日に、翌日の新春の拝賀の儀式のために上衣を洗い張りしていましたが、あまりなれないことであったので、その肩あたりを破いてしまったのです。それを悲しんでいると、これが高貴な男の耳に入り、気の毒に思い、立派な緑色の袍を見つけて渡すのです。

そしてその訳を上のような歌で表します。「紫で染めた色で濃いものは眼をみはるものですが、野にあって草木と一緒に生えている時は、紫草といってもそう簡単に区別がつくものではありません。だけど、紫草があれば、そのあたりはその色に染まっていくように、私たちも妻が姉妹ということで、縁があるのです」。
紫の根の表面に色があり、収穫された根に触れるだけで指には紫の色が付きますし、またその絡み合った根の様子を見ていると、これが「紫のゆかり」という言葉が生まれた所以であろう、と思います。

紫の色を表すにはこの根を、石臼の中に入れて木槌で砕き、麻袋にいれて、お湯の中で揉むとその色素が溶け出すのです。浴槽の中にたっぷりの湯を張り、そこにその紫根から得た抽出液を少しずつ足しながら、布や糸を入れて動かすと少しずつ色が染まっていきます。

またそれだけでは色は定着しないので、椿の木を燃やした灰を媒染剤として使います。灰に熱湯を注いで2,3日置いたその上澄み液を、別の浴槽に張ったお湯の中に入れて、染めた布を入れます。椿の灰にはアルミニウム成分が含まれているので、紫の色素を布や糸に定着させる役割を果たしています。これを繰り返すことで少しずつ色を濃くしていくのですが、「深紫」は紫の中でも最も濃い色ですので、この一連の作業を一週間ほど続けて、ようやく得ることができるのです。
写真提供:吉岡更紗

吉岡更紗
染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。
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