日本の色/葡萄色えびいろ

にっぽんのいろ 2023.12.14

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染織家の吉岡更紗です。私は、京都で200年以上続く染屋「染司よしおか」の六代目で、いにしえから伝わる技法で、植物を中心とした自然界に存在するもので染色をしています。
世界中で類をみないほど数多い、豊かな美しい日本の色。その中から今月は「葡萄色(えびいろ)」についてご紹介いたします。

葡萄色

師走を迎えると、お世話になった方へお歳暮を贈るという習慣があります。これは年の暮れに先祖を祀るための「御霊会」におけるお供え物が起源とされているそうですが、平安時代、都に暮らす貴族の男性には、ゆかりある女性たちに新春に着る晴れ着や調度品を贈る習慣がありました。『源氏物語』の「玉鬘」帖では、光源氏は、蔵から様々な衣装を出してきて、紫の上と共に、数人の女性のために選ぶ「衣(きぬ)配り」という場面が描かれています。

「玉鬘」衣配り

須磨や明石で流浪の生活から京に戻り、太政大臣となった35歳の光源氏が、六条院という住まいを構え、華麗な生活を送っている頃です。この豪邸は四季を象徴するかのように、大きく4つに分けられており、それぞれに光源氏にゆかりのある女性が住んでいます。東南は春として光源氏が紫の上、明石の姫君と暮らしていて、東北は夏で玉鬘が花散里を後見として暮らし、西南は秋で秋好中宮が、西北には冬を表す佇まいで明石の上が住まいとしています。

紫の上は光源氏と同じ住まいなのですが、他の女性と顔を合わせることがないので、光源氏が他の女性のために選ぶさまをみて、それぞれの女性がどのような容貌で、どのような人柄なのかを想像してしまいます。そんな彼女に対し、光源氏は自分に似合うものはどれだと思うのか?と尋ねます。紫の上は、鏡を見ただけでは、どうして決められましょうかと恥ずかしそうに答え、選ぶのを光源氏に委ねるのです。

そんな紫の上の為に光源氏が選んだ衣装は、「紅梅のいと紋浮きたる葡萄(えび)染の御小袿(こうちき)、今様色のいとすぐれたる」と書かれていて、紅梅を思わせるような文様が織り出された生地を葡萄染に染めた小袿に、今様色を添えています。

紫の上の衣装 葡萄染と今様色

葡萄染の色は、山葡萄の実が熟したような、赤味のある紫の色合いで表していました。
山葡萄のことをその当時は「葡萄葛(えびかずら)」と呼んでいたので、この色合いも「葡萄染」と書いて「ぶどうぞめ」と呼ぶのではなく、「えびぞめ」と呼んでいました。

その熟した実の絞り汁で、葡萄色を染められると想像してしまいそうですが、実際には紫根をたっぷり揉みだした染液に酢を多く入れて、赤みの紫になるように染められていました。それに添えた今様色とは流行色という意味であり、紅花で染められた平安時代の女性が大変好んだ色だったと言われています。

紫根

その後それぞれの女性の雰囲気に合った衣装を次々と選んでいく光源氏ですが、やはり最愛の女性である紫の上には、もっとも気品高い色を選んでいるようです。贈られた衣装は、元日に着るようにという手紙が添えられていて、「玉鬘」の後の「初音」の帖には、実際に六条院に住まう女性を訪ね歩く場面も描かれています。新年を迎える際の女性たちの色とりどりの衣装はとても華やかで美しいものだったのではと想像します。皆さまも、どうぞよいお年を晴れやかな彩でお迎えくださいませ。

写真提供:紫紅社

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吉岡更紗

染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。

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紫のゆかり 吉岡幸雄の色彩界

染司よしおか

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