和暦研究家の高月美樹です。
今日は七十二侯「蛙始鳴(かわずはじめてなく)」についてのお話です。
蛙始鳴は、カエルが鳴きはじめ、元気に動き回るころ。
いよいよ田植えの準備が始まり、代掻き(しろかき)や畦塗り(あぜぬり)の季節に入りました。田んぼに水が引かれると冬眠からめざめたカエルたちは早速、卵を産みにやってきます。そしてちょうど田植えの頃になると孵化して、田んぼの中は元気に泳ぎ回るおたまじゃくしでいっぱいになります。
おたまじゃくしというと長いので、俳句の世界では蝌蚪(かと)と2文字で表現します。長いぬるぬるした帯状の卵のことは「蝌蚪の紐」または「数珠子(じゅずこ)」といいます。
マイ田んぼは他県にあるため、今年は残念ながらまだ足を踏み入れられずにいるのですが、田植えの準備に入る今の季節、カエルとの久しぶりの邂逅も毎年の楽しみのひとつです。カエルを見かけると「お母さんがんばって」と声をかけたいような気持ちになります。なにしろカエルの多くは大人になる前に食べられてしまい、生き延びて冬を越したカエルはごくわずか。運のよかったカエルたちです。
いちばん多いのはやはりニホンアマガエルですが、ほかにもアカガエルやシュレーゲルアオガエルも田んぼに住む仲間たちです。畦塗りをしているときにいつも楽しみにしているのが、シュレーゲルアオガエルの真っ白な卵のうの発見です。
芹の生える水際にぷかぷか浮いていたり、鍬を入れた土の中からポコンっと出てくることもあります。アマガエルはたくさんいますが、シュレーゲルの数は少ないので、今年も元気に卵を産んでくれたなとうれしくなります。
シュレーゲルアオガエルは大変、美しいカエルで、カエル好きにも大人気。年々減少し、絶滅危惧種に指定されているところもあります。みなさんよくご存知のニホンアマガエルより大きく、まぶたは鮮やかなゴールド。アマガエルのように黒いアイラインがないことが見分けポイントです。まさに全身が緑です。
アマガエルの鳴き声はクワクワ、ケッケッですが、シュレーゲルアオガエルの鳴き声の方がコロロ、コロロロと細くきれいな声です。シュレーゲルという外来種のような名前がつけられていますが、じつは日本の固有種です。動物学者のヘルマン・シュレーゲル氏の名前がつけられた日本のカエル。これぞ青蛙なのです。
ニホンアマガエルはアマガエル科、シュレーゲルアオガエルとモリアオガエルがアオガエル科です。
※七十二候(しちじゅうにこう)は、日本の1年を72等分し、季節それぞれのできごとをそのまま名前にした、約5日ごとに移ろう細やかな季節です。
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