和暦研究家の高月美樹です。今日は七十二侯の「蟷螂生」についてです。
子供の頃はカマキリがちょうど生まれてくるところに出くわし、よく観察していました。
カマキリの赤ちゃんのかわいいこと!
小さいのにちゃんと鎌をかまえる姿はなんとも微笑ましい。この光景をよくみていたせいか、秋になってびっくりするほど大きくなったカマキリを見ると、「よく生き残ったねえ」と感嘆し、祝福したいような気持ちになります。
小さい頃はアリに食べられてしまうほど弱いカマキリですが、アブラムシやダニなどを食べてくれるので、畑や菜園においては益虫です。成長とともに次第に大きな獲物をとるようになり、最後には肉食昆虫の中でもトップに近い存在になるのはご存知のとおり。
ひとつの卵嚢から生まれるカマキリは200匹以上ですが、成虫して生き延びるのは2、3匹だそうです。
カマキリがいる場所には捕食される他のいきものがいるということでもあり、生態系の豊かさの象徴でもあります。作物につく害虫をとってくれるので、カマキリの卵嚢を大事に保護する農家さんもいます。
私の田んぼでは毎年、稲刈りのときに必ずオオカマキリと遭遇しますし、彼女たちが産んだ卵鞘(らんしょう)を稲束の中にいくつも見つけます。
写真は昨年の稲刈りのときの一枚です。こちらをキッとにらんで、卵鞘を守っているような姿に、思わず微笑んでしまいました。
人が近づくと振り向いたり、顔の向きがはっきりわかるのも面白いですよね。威嚇するように鎌をかまえはしますが、その鎌は自分が食べられる獲物を捉えるためのもので、大きな人間に飛びかかってくることはありませんし、毒もありません。
成長したカマキリは身体が大きいので怖いと思う人もいるかもしれませんが、じつは人間にはまったく無害な生きものです。
「なんとなく怖い」というイメージではなく、生きものの性質や役割をよく知ることで、まったく怖くなくなることがあります。恐れるべきはなんなのかを見誤らないようにしたいですね。
私にとっては体長わずか数ミリのブヨの方がよほど気をつけなければいけない危険な生きものです。
ところで、こんなかわいいカマキリもいます。
蘭の花に完全に擬態したハナカマキリ。東南アジアの熱帯雨林に広く生息するカマキリで、蘭の花に棲み、いつしか蘭の花そっくりになってしまったカマキリです。こんなカマキリなら怖くないのでは?
ところでカマキリは昔から「拝み虫」と呼ばれてきました。英語でも同じようにpraying mantis(祈り虫)というそうです。
「拝み虫」でいつも思い出すのは、小林一茶の有名な句。
殺してしまおうとしたハエをよくみると、命乞いをするように一生懸命手をすり合わせている。ハエもちょうど今頃の季語ですが、小さな命にも目を向け、大切にしようという気持ちになる素敵な句です。
私は虫が好きなのでいろんな虫をよく観察していますが、この動作はカマキリやハエに限りません。小さな昆虫たちは前足で器用に触覚を拭いたり、手足についた汚れをとるしぐさをよくしています。彼らにとっては生きるために必要な行為なのですが、懸命な姿がなんとも可愛いなあ、とつい眺めてしまいます。
6月4日は虫の日、6月5日は環境の日です。
地球上に花があふれているのは虫たちと植物の長年にわたる進化の結果です。精妙な共存の世界、その中で生かされている人間の立ち位置をほんの少し感じていただければ幸いです。
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