桃始笑ももはじめてさく

二十四節気と七十二候 2021.03.10

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七十二侯は「桃始笑(ももはじめてさく)を迎えました。

桃の木はかつて中国で魔を払う力がある霊木とされてきたため、「兆す」の字をあてられています。理想郷やユートピアとしての「桃源郷」も、不老不死の桃の実がなる仙境の伝説からきていますし、鬼を退治にいく桃太郎伝説もここから来ています。

由来はともあれ、実際の桃の花や枝ぶりをみると、素直というか、無邪気というか、梅のような品格はなく、桜のような豪華さもないけれど、女の子のとびっきりの笑顔のような愛らしさがあります。

女の子の成長を祝う「桃の節句」のルーツは、中国最古の詩集『詩経』の「花嫁の歌」にあります。桃はいわば気立てのよい女の子の象徴で、古代の中国では旧暦三月の桃の咲く頃に結婚式を挙げる風習があり、嫁ぐ娘たちの幸せな門出を祝う歌だったようです。詳しくはこちらをご覧ください。

ところで、七十二候では「笑う」と書いて「さく」と読ませています。花は「ほころぶ」と表現することもありますが、「ほころぶ」という言葉は内側に隠れさていたものが突然、外に顕れることをさしています。

つぼみに溜めていた力が一気に外側に放出されるのが「ほころぶ」という現象で、春の鳥が静寂を破ってさえずることも、ほころびです。花をみるとき、人の顔にも自然に笑みが浮かんでいます。内側に湧いた感情が隠しきれずに自然にこぼれてしまうとき、人は笑うわけです。

愛らしい桃の花は、子どもに帰ったように人々の笑みを誘います。「花笑み」という言葉は花が咲くことだけでなく、花が咲いたような笑顔や、人が微笑んでいる様子をさしています。

春はレンギョウやロウバイなど黄色の花から始まって、次第にピンクの花が多くなってきます。そのオンパレードの始まりが桃の花ですが、今回は桃の花以降、次々に咲くピンクの花たちを紹介したいとおもいます。

ひらひらと華やかに咲くヒメコブシ。紙垂(しで)のようにもみえるので、シデコブシともいいます。

梅もまだまだ咲いています。梅は200種くらいあって遅咲きの梅もあり、一重もあれば八重もあり、色もさまざま。杏との交配種もあります。

遅咲きの梅と同じころに咲いているのが、アンズ(杏)の花。アンズの古名はカラモモ(唐桃)です。梅とよく似ていて間違われやすいのですが、見分けポイントは木肌と枝ぶり。ゴツゴツとした梅とはまったく違うので、どちらか迷ったら樹形をよく観察してみてください。ふんわりしたピンクがなんとも愛らしく、可愛い花です。この花が咲いている頃に降る雨を杏花雨(きょうかう)といいます。

丸裸の枝にびっしりとピンクの花をつけるミツバツツジ(三葉躑躅)。ポンポンと咲く姿はいかにも春らしく、華やか。最近は庭木として植えられているのをよくみかけます。

シャクナゲ(石楠花)のひときわ鮮やかなピンク。ひとつの大きなつぼみがほどけて、たくさんの花がひらいて球状になります。精巧な折り紙のようなつぼみの造形が素晴らしいので、ぜひ咲く前の状態にも目をとめてみてください。

ゲンペイモモ(源平桃)。江戸時代、紅白に咲くのを源氏と平氏になぞらえて名づけられたハナモモの改良品種です。桜と同じ頃に咲き出します。

桜は今回、割愛しますが、桜のあとに入れ替わるように咲き始めるのがハナカイドウ(花海棠)。ハナカイドウは桜よりも濃く、甘いピンクで春たけなわの季節を彩ります。

濃い赤紫が遠くからもよく目立つハナズオウ(花蘇芳)。この花が咲く頃には春もそろそろ終わりの合図です。

以上、これから咲く花たちも含めて、春のピンクをご紹介しました。花をみて、いつのまにか自分の顔にも自然に笑みが浮かんでいる。そんな時間を楽しみましょう。

文責・高月美樹

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高月美樹

和暦研究家・LUNAWORKS代表 
東京生まれ、三鷹育ち。好きな季節は、初夏の清和と、胸がキュンとする晩夏。趣味は、田んぼ生活・植物と虫・ミツバチ研究。専門分野は和暦文化。『和暦日々是好日』発行人。

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