七十二候では「綿柎開(わたのはなしべひらく)」を迎えました。七十二候には大きな産業に関わるものがいくつかあります。大きな富をもたらした紅花、全国で盛んに生産されていた絹、そして今回の木綿です。
絹は第二十二候「蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)」、紅花は第二十三候「紅花栄(べにばなさかう)」、そして木綿は第四十候「綿柎開(わたのはなしべひらく)」。この三候は衰退してしまった日本の産業の歴史や、昔の人々の暮らしを思い出させてくれるものです。

ドライフラワーの花材や飾りとしてコットンボールをみたことがある人は多いとおもいますが、一面に広がる綿畑は、かつて見られたであろう風景として想像するばかりになりつつあります。
日本に二百種以上あった綿の在来種も、ほとんどが絶え、現在は数十種類が残され、各地で「和綿」としてわずかながら栽培されています。


「真綿の布団」というように、元々、綿とは絹のことですので、植物性の綿は木の綿で「木綿(きわた)」または「棉(わた)」として区別されていましたが、次第に「綿」だけで木綿(もめん)を表すようになりました。木綿は明治までは100%の自給率でしたが、現在はほぼ1パーセント以下。私たちが身につけている木綿はほぼ輸入品です。
国産の木綿を「和綿」といいますが、和綿は繊維が短く、太く、丈夫で、独特の厚みと弾力があったといいます。戦国時代までの日本の衣料は麻や絹が中心で、木綿が一般に広く普及したのは江戸時代になってからでした。
木綿の普及は藍染とも深い関係があります。洗えば洗うほど肌触りがよく、吸湿性、保温性にすぐれた木綿は、百姓や職人の労働着、庶民の普段着、のれんや手ぬぐいなどの生活用品として、爆発的に広まりました。
「蓼食う虫も好き好き」という言葉もあるように、藍には防虫効果もあり、藍で染めることによってさらに堅牢になり、耐久性も増し、染めの発色も美しくなる木綿と藍は、相性抜群だったのです。

これは古布研究の一環として収集してきた裂帳の一部です。型染めの創意工夫を重ねて花開いた染色の技術も今はほとんど廃れてしまいましたが、木綿と藍の世界がいかに人々の生活を華やがせていたかが伺い知れます。
「着物の多数を占める濃紺色は、のれんにも同じように幅を利かせている。もちろん、明るい青、白、赤といった他の色もちらほら見かけるが、緑や黄色のものはない」」―小泉八雲著『日本の面影』
小泉八雲が「美しい青の国」、と感嘆したジャパン・ブルーは木綿とともに発展しましたが、明治に入り、安価な輸入木綿の普及とともに、精緻を極めた藍染の文化も消えてしまったというわけです。
ところで、七十二候「綿柎開(わたのはなしべひらく)」の「柎」は萼のことで、綿の実を包んだ萼が開き始めるという意味なのですが、綿の花が咲く時期は7〜9月ですので、今はまだ花が咲いているところが多いかとおもいます。
綿になってはじけるのはもう少し先になります。クリーム色の花はオクラの花によく似ていて、ふわりとした花びらのなかなか美しい花です。

歳時記には綿に関する季語が多く存在します。「草棉(わた)」は朔果、コットンボールのことです。ほかにも「棉吹く」「木棉(きわた)」「棉摘み」「棉取り」「新綿」「今年綿」など、いずれも収穫期を迎える10月ごろの秋の季語になっています。「棉」の字は植物の状態で、摘み取ったところまでに使われ、繊維になってからは「綿」の字を使うようです。
松尾芭蕉がこんな句を残しています。
芭蕉が伊賀で行われた八月十五日の月見の宴で詠んだ句です。旧暦ですので、この年の名月は西暦で換算すると10月3日。当時の伊賀は綿花の栽培が盛んな所だったそうで、煌々と明るい月の光をあびて、一面、花のようにみえるのは綿の白い朔果なのだ、と詠っています。闇に浮かぶ満月のような白いふわふわのコットンボールたち。情景が目に浮かびますね。
今年の中秋の名月は9月21日。どんな月が上がるでしょうか。

文責・高月美樹
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