「待ってました、やっぱり美味なる新米を」
霜降です。秋も深まっています。
近所を散歩しても、田んぼはどこもすっかり稲刈りが終わっています。そろそろ冷え込む日もあって、そんな朝には霜が降りることもありそうな、そんな季節になりました。高い山では初冠雪の知らせも届き始めます。
晩秋の、このころには紅葉も始まって、これからは鮮やかな錦繍が目を楽しませてくれることでしょう。
そんな霜降のころ、待っていたのは新米です。年々新米が出回る時季は早まっているようですが、晩秋にもなると、各地の新米が手に入りやすくなります。各地で採れた新米を少しずつ買って、食べ比べをするのもご機嫌ですね。
新米の魅力は、なんといってもピカピカと光り輝く炊きたての白いごはん。お茶碗にたっぷりよそって、大きなごはんのかたまりをパクリ。新米の滋味が体全体に沁み渡るようです。
新米ごはんのおかずにするなら、シンプルなものに限ります。ごはんのおいしさが引き立つ、たとえば塩鮭よし、梅干しもよし、昆布の佃煮もいいな。焼き海苔にとろろ芋、かつおぶしごはんにしたら、丼一杯いけそうです。
白いごはんはもちろんですが、秋の味覚を新米に炊き込んだり混ぜたりするのもこの季節ならでは。
栗ごはんはその代表で、栗をむいたら塩をほんの少し入れて、炊き込みます。栗がゴロゴロ入っているのが好みなので、我が家の栗ごはんは、お米一合に栗一合。お米と栗の割合が一対一です。年にそう何度も炊かない栗ごはんですから、せっかく炊くときは思い切り贅沢に、ということで。
ぎんなんごはんは大人の味。ぎんなんの殻を割って実を取り出したら、鍋で茹でながら皮をこすり取ります。新しいぎんなんは、まるで翡翠のような透明感。茹で上がったひと粒を思わず指に添えて、指輪に見立てて眺めたくなるようです。このぎんなんを、塩ひとつまみといっしょに入れてごはんを炊きます。ぎんなんの美しさも目で楽しんで味わいます。
秋の味といえばきのこです。松茸ごはんもいいけれど、いろいろな種類のきのこミックスの炊き込みごはんはいかがでしょう。お醤油とお酒で味をつけます。
色のきれいな菊の花ごはんは、黄色と紫色の食用菊を酢水で茹でておいて、炊きたてのごはんに混ぜ込んでつくります。白ごまをふってアクセントにすれば、さらに味わい深くてうっとりです。
秋はおいしいものが目白押しで、大忙し。果物も待ってはくれません。渋柿は干して、いちじくはコンポートに、りんごも年に一度はタルト・タタンをつくりたいし。
それには元気でいなければ。エネルギー源は、もちろんピカピカの新米です。
平野恵理子
イラストレーター、エッセイスト
1961年静岡県生まれ。著書に『五十八歳、山の家で猫と暮らす』『歳時記おしながき』『こんな、季節の味ばなし』ほか多数。好きな季節は、季節の変わり目。現在は八ヶ岳南麓在住。
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