立春をすぎたら、待たれるものは鶯(うぐいす)の声。私は例年より早く、1月中に聞きました。「ピィヨロ」「ケキョ」くらいの、ほんのわずかなさえずりでしたが、ふだん聴いている小鳥の声とは異なる透き通った声は、鈴のように鮮烈に響き渡り、たちまち空気がすがすがしくなるように感じられました。さすが鶯!と、惚れ惚れした瞬間でした。

ところで七十二候の「黄鶯睍睆(うぐいすなく)」には、なぜ黄色がつくのでしょう。じつは中国を始めとする東南アジアに棲息するのは、鮮やかな黄色の羽を持つ高麗鶯(こうらいうぐいす)。日本の鶯より大型で、鳴き声もまったく異なり、ホーホケキョではありません。中国では黄鳥(こうちょう)、金衣公子(きんいこうし)、鵹黄(りこう)などの名もあり、皇帝の色である黄色であることから尊ばれた鳥です。

ですので、本来は「鶯睍睆」の三文字でいいようなものですが、七十二候は中国伝来のため、黄の文字が残されているというわけです。もちろん日本の鶯といえば、誰もが知っているこの「鶯色(うぐいすいろ)」。なんともいえないスモーキーな暗緑褐色で、江戸時代に人気を博した色です。

「梅に鶯」は日本の春を象徴するモチーフとして、しばしば歌に詠まれ、絵に描かれてきました。とはいえ、実際に梅が枝によく留まるのは花の蜜が大好きなメジロのことが多く、警戒心の強い鶯はなかなか姿をみせてくれませんが、声だけはよく聴こえます。

鶯の異名は春告鳥(はるつげどり)、法華経の聞きなしから経読鳥(きょうよみどり)、梅の枝にとまることから匂鳥(においどり)という呼び名もあります。歌詠鳥(うたよみどり)の名は、以下の『古今和歌集 仮名序』が由来です。

鶯はまさに歌鳥、ソングバードと呼ばれる鳴禽類で、さえずりを学習する鳥です。「ケキョ」「ジュル」など、はっきりしないぐずぐずした鳴き声を「ぐぜり」といいます。英語ではsub songと呼ばれる「不完全なさえずり」です。ぐぜっていた鶯が春の深まりとともに次第に上手になっていくのも楽しみのひとつ。
思わず「がんばって!」と応援したいような気持ちになりますが、じつは一年生の若い鶯だけでなく、前年にさえずっていた成鳥もぐぜりから始まって、次第に美しい鳴き声になります。

私が今まで聴いた中で、もっとも惚れ込んだのは滋賀県栗東市の山で聞いたさえずりです。今まで聞いたこともないような長く、澄んだ美声で、この地域に棲む「歌い手の伝統」を感じずにはいられませんでした。
江戸時代、鶯の名所として知られるようになった鶯谷は「江戸の鶯は訛っている」と考えた寛永寺の住職が、京都から数千羽の鶯を運ばせて放ったためだそうです。お手本がよければ上手くなるのは本当で、中世には鳴き声の優劣を競う「鶯合わせ」が行われていたようです。

そもそも春の鶯が鳴くのは求愛のため。メスはその歌声を気に入るかどうかで相手を決めるのですから、なかなか大変です。鶯は春の季語ですが、じつは鶯がもっとも盛んにさえずるのは繁殖期を迎える初夏。夏鶯(なつうぐいす)が季語になります。山に入れば夏の間中、聞こえますが、さえずりは春より若干、低いトーンになるそうです。この頃のさえずりは相手が見つからないのではなく、縄張り宣言や、子育て中のメスを守るためで、有名な「谷渡り」も侵入者への威嚇とされています。
また鶯は一夫一婦制ではないため、二度目のお相手を探していたりもします。縄張り争いの少ない地域では鶯のさえずりは冴えず、単純化してしまうそうですから、ライバルの多い地域ほど、歌上手になる傾向があるようです。

俳諧では、春を告げる鶯の第一声は初音(はつね)、夏を告げる時鳥(ほととぎす)は一声(いっせい)とし、たった二文字で違いを明快に表現できるようになっています。
鶯の初音を聴いて心が踊るのは、今も昔も変わりません。昨年も聞いた、懐かしく、美しいさえずり。また新たな春を迎えられた安堵と喜びが、胸いっぱいに広がります。みなさまは鶯の初音、もう、聞かれたでしょうか。

文責・高月美樹
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