七十二候は大暑の末候「大雨時行(たいうときどきふる)」を迎えました。梅雨明けの猛暑続きの日々が終わると、日本はいよいよ台風の季節の到来。雷や夕立も多くなり、これから9月にかけて次々に台風がやってきます。
台風という言葉は明治以降に使われるようになった言葉で、英語のtyphoonの訳から来ています。それ以前はなんと呼んでいたかというと「野分(のわき)」でした。台風がすぎた後、野の草が吹き倒されている様子を意味し、何もかも吹き払われた清々しさや安堵感をともなう言葉だったようです。
台風は災害をもたらすこともありますが、河川のない内陸部に水を供給したり、森の新陳代謝を促したり、沿岸部では海水が攪拌されることによって泥底まで酸素が行き渡り、生態系を豊かにするなどの重要な役目も果たしています。とはいえ、あまりに頻度が高くなると、森や海の再生が間に合わないうちに破壊が繰り返されることにもなります。
ゲリラ豪雨という言葉が使われるようになって久しいですが、気候変動によるゲリラ豪雨は世界中で起きており、近年は特に顕著で、記録的な熱波に襲われる地域が出る一方、これまでになかったような洪水や土砂崩れを伝えるニュースが連日のように飛び込んできています。いよいよ地球のバランスが崩れ出していることを感じざるを得ません。
日本の梅雨も、以前であればしとしとした弱い雨が長く降ることが多かったのですが、近年は雨が降らない日が増えた代わりに、局地的にまとまって降る集中豪雨が多くなってきて、災害を引き起こすようになっています。これからの1ヶ月間も台風とは関係なく、ゲリラ豪雨は多くなりますので、十分警戒が必要です。被害が少ないことを祈るばかりです。
水無月(現在の7月頃)には雷が鳴り響く鳴神月(なるかみつき)のほか、涼暮月(すずくれつき)という異名があります。昼間の暑さを一気にさますようにわか雨が降るようになると、夏もいよいよ後半戦。にわか雨や夕立のあと、すーっと涼しくなってほっとするひとときは、なんともいえずいいものです。
ところで、夕立や夏の雨にはさまざまな異名があります。
突然、急に激しく降り出す雨を驟雨(しゅうう)、雨脚が激しく、真っ白にみえるようなにわか雨のことを白雨(はくう)といいます。
銀箭(ぎんせん)は銀の矢のように雨脚がきらきらと光って見えるような雨。
濯枝雨(たくしあめ)は木々の枝や葉を洗い流すような雨のこと。木々の葉についた埃もすっかり洗い流され、さっぱりした感じになっています。
日照雨(そばえ)は太陽の日差しの中に戯れるように降るお天気雨。
喜雨(きう)は夏の土用の頃、日照り続きのあとに降る救いの雨です。
同じ雨でも、見る人の目によって雨の名前はさまざまです。
肘を傘代わりにして、あわてて軒先まで走ることから「肘かさ雨」という風流な呼び名もあります。着物の袂を傘替わりにした時代の言葉なので、今ではあまり使われませんが、カバンなどを頭に乗せてあわてて駆け出していく人の姿は今でも見かける光景です。
文責・高月美樹
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