初夏の味、筍
七十二候は「竹笋生(たけのこしょうず)」を迎えました。みなさまはもう筍を召し上がったでしょうか。ゆがいたり、焼いたり、その新鮮な美味しさに、舌鼓を打つ初夏の味。一度は食べたい筍飯、わかめと一緒に炊く若竹煮。山椒のすがすがしい香りも夏の始まりにぴったりです。
私は毎年、田んぼにいくと農家さんが食べきれないほどおみやげにくれるので、筍三昧の日々になります。
筍の旬は年に一度、本当に一瞬。筍の文字は竹冠に旬です。旬は物事や食材の走りや最盛期を意味する言葉としてよく使われていますが、月の上旬、中旬、下旬というように、元々十日という単位を意味する言葉です。
土から少し顔を出すか出さないかのときに限られる筍は、十日もすると若竹に成長してしまうので、まさに旬の文字があてはまります。それだけに有り難く、季節を感じることができるご馳走です。
筍は傷つけないように注意深く掘りとられ、皮をむいたり、アクを抜いたり、手間をかけて食卓に並べられます。筍の味には明快な旬をいただく喜びと、人の手が加わった優しさがほのかな甘味に含まれているようにおもいます。
節目を作りながら、まっすぐにのびるその強い生命力にあやかって、竹は節度としなやかな強さの象徴とされてきました。1日で数十センチずつ、「雨後の筍」ともいうように雨が降った後は、驚くほど一斉に伸びることで知られています。
竹の秋と竹の春
さまざまな草木が青葉の勢いを増していく中で、地中の筍を育てている親竹たちは黄ばんで、どんどん葉を落とします。その姿から、日本人は今頃の季節を「竹の秋」と呼び、若竹が育って青葉がサワサワと涼しげに揺れる初秋を、「竹の春」と呼んできました。古葉がどっさりと散りつもった地面から、ちょこんと顔を出す筍には風情があります。
初夏はじつは落ち葉の多い季節。頭上がみずみずしい若葉にすっかりおおわれるころ、地上にはいつのまにか落ち葉が多くなってきます。
常盤木落葉(ときわぎおちば)
今の季節の季語に、常盤木落葉(ときわぎおちば)という言葉があります。
常緑樹は新しい葉がととのうにつれ、古い葉をはらはらと落とします。新葉に入れ変わった常緑樹は生まれ変わったようにいきいきとして、裸木から一気に葉を茂らせた落葉広葉樹たちとすっかり足並みを揃え、光さざめいています。
常盤木落葉はそれぞれ個別に樫落葉(かしおちば)、楠落葉(くすおちば)、杉落葉(すぎおちば)、松落葉(まつおちば)という場合もあり、簡単に夏落葉(なつおちば)ともいいます。
落ち葉の多い場所には草が生えにくく、自然な雑草対策にもなっていますし、土が固すぎる場所には枯れ葉を堆積させることで土中菌の働きが活発になり、やわらかくなってきます。落ち葉はその下にたくさんの生き物や微生物を養い、夏は熱射から守ってくれる有り難い存在。ちょろちょろとトカゲが走っていたりもします。
さまざまな生きものを養う常盤木落葉(ときわぎおちば)。死と再生の静かなめぐりを感じさせる足元の光景にも、ちょっと目をとめてみてください。
文責・高月美樹
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