七十二候/草木萠動そうもくめばえいずる

二十四節気と七十二候 2024.02.29

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くさぐさの花

季節は雨水の第三候、「草木萠動(そうもくめばえいずる)」へと入りました。

万物生(ばんぶつしょう)は、すべてのものに新たな命を与える春の雨のこと。大地をうるおし、地中の虫たちを目覚めさせ、木々を芽吹かせ、あらゆるいのちを生じさせる雨。

万物をいきいきとさせていく雨の季節です。土色だった大地は雨でぬかるみ、草が一斉に萌え出して、うっすらもやぐように緑がかってきます。

くさぐさは萌え出したかと思うと、急いで花を咲かせます。都会でもよくみかけるのは青いオオイヌノフグリ、水色のキュウリグサ、白いハコベ、オランダミミナグサ、タネツケバナ、ナズナ、ピンクのホトケノザ、ヒメオドリコソウ、黄色のカタバミ、コオニタビラコなど。大地はもうすっかり花盛り。路傍の花だらけで、足元が楽しい季節です。

小さな草たちが早々に花をつけるのは周囲に背の高い草が生えたり、大きな木の木陰になったりする前に花を咲かせ、確実にいのちをつなぐため。樹木の花は仲春から晩春にかけて、ゆっくりと咲きます。

雑草と呼ばれるくさぐさは肥沃な土地を選ばず、あえて過酷な環境に適応することで、生き延びてきました。タンポポのように踏まれることを厭わないロゼット型のものが多く、強い生命力を持っています。

ひとり生えの草 皆花となりにけり 子規

踏まれそうな道路の真ん中に、ポツンと咲いているスミレを見つけました。なんだか雛人形のお内裏様のように鎮座して、凛とした風情を醸し出しています。

小草生ふ

石畳のわずかな隙間、埃が溜まったような階段の隅など、至るところに萌え出してくる草の生命力には毎年、驚かされます。懸命に生きようとしている姿を愛しみ、たたえる言葉として「小草(おぐさ)」という言葉があります。

昔の人々は雑草ではなく「小草(おぐさ)」と呼んで、春の生命力を愛しんできました。ぜひ雑草ではなく、「小草」と呼んであげてください。春は「小草生(お)ふ」の他、「草の芽」、「草萌え」、「下萌え」、「草青む」など、草に関する季語はたくさんあります。

ナズナと石畳
我庭の小草萌えいでぬ限りなき 天地今やよみがへるらし 子規

大地の植生は同じ場所でも毎年、変わっていきますが、春の七草として知られるナズナ、ホトケノザ、ハコベラ、タビラコなどは今も都会の常連です。

虎屋の上生菓子「下萌」

アリのパトロール

よく見ると花にはすでにアリがやってきて、忙しそうに動き回っています。世界でもっとも繁栄に成功した虫は、アリだといわれています。その理由は多くの植物や虫と多岐にわたる共生関係を結んできたことにあります。

たとえば植物は花の蜜だけでなく、茎の付け根からも蜜を出しているものが多いのですが、それはアリにパトロールしてもらうため。虫に食べられやすい若葉の付け根に蜜腺を持つことでアリに来てもらい、産みつけられた卵や毛虫をとってもらったり、種に美味しい甘いお菓子をつけてアリに運んでもらったり、アリの好きな匂いを出して、巣の中に運んでもらい、育ててもらうなど巧みな戦略を持つチョウもいます。アブラムシたちも、アリに甘い汁を与えることでテントウムシなどの天敵から身を守ってもらっています。

アリに種を運んでもらっているアリ散布植物は、カラスノエンドウ、ホトケノザ、ヒメオドリコソウ、ムラサキケマン、カタクリ、スミレ、カタバミ、キュウリグサなど。今、咲いているものの多くがアリと共生関係にあります。

(左)ホトケノザ (右)カラスノエンドウ

三世の仏

蜂の子に菫たんぽぽこきまぜて  
三世の仏にたてまつりてむ 良寛
スミレとタンポポ

良寛の歌の通り、スミレとタンポポが一緒に咲いているのを見つけました。水色の小さなキュウリグサも一緒に咲いています。三世の仏とは過去、現在、未来の三世にわたって存在する一切の神のこと。神々はいつも小さなものの中に顕れているように思えてなりません。

文責/写真提供:高月美樹

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高月美樹

和暦研究家・LUNAWORKS代表 
東京・荻窪在住。和暦手帳『和暦日々是好日』の制作・発行人。好きな季節は清明と白露。『にっぽんの七十二候』『癒しの七十ニャ候』『まいにち暦生活』『にっぽんのいろ図鑑』婦人画報『和ダイアリー』監修。趣味は群馬県川場村での田んぼ生活、植物と虫の生態系、ミツバチ研究など。

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