こんにちは。料理人の庄本彩美です。今回は春キャベツのお話です。
祖母から野菜が届くと連絡があったので、私は包丁を研ぐことにした。
包丁を整えている時間は静かで、自分の心も自然と整えられていくような気持ちになる。
届いたダンボールの中には、新聞紙で丁寧に包まれた野菜が所狭しと入れられていた。それをひとつひとつ開けては、中身を確認していく。
その中に3つ丸いかたまりを見つけた。「これはキャベツだな」と予想し、重いだろうからと両手で持ち上げると、思いの外軽くて拍子抜けした。
そうだ、春キャベツはこんな軽さだった。葉と葉の間が緩く、天使の羽のように、ふんわり交互に重なり合っている。

春キャベツは生で食べるのが一番美味しいと思っている。私の一番のおすすめは、刺身のツマにすることだ。
さっぱりとした大根も好きだが、甘みと瑞々しさのある春キャベツも、刺身を邪魔することなくよく合う。
そして、春キャベツを楽しむ上で大切な事がもう一つ。よく切れる包丁を使うことだ。
よく研がれた包丁は、野菜の繊維を潰すことなく切ることができ、歯で噛んだ時に、初めてその味が弾け、美味しさがよく分かる。
キャベツを一枚剥がし、さっと水で洗って葉の丸みに添ってくるくるっと巻く。
左手でつぶれないように優しく抑え、包丁を持つ手は力まずに。速く切る必要はないので、ゆっくり丁寧に千切りをして、皿に盛っていた刺身の横に添えた。

「いただきます」
キャベツを口に運ぶと、懐かしい味と実家の風景が鮮やかに蘇ってきた。
畑で祖母が鍬(くわ)をあげて土を耕している。その姿の奥には、モンシロチョウが数匹ふわふわと舞っている場所があった。私はそこへかけ寄り、かがんで覗き込む。黄緑色の春キャベツをむしゃむしゃと食べて、ころんころんに太っている青虫がいた。

「ニワトリにあげてきんさい」
祖母に渡された虫取りカゴに青虫をつまんで入れて、庭のニワトリへ持っていくのが私の仕事だった。
手押し車に乗せられて、家へ帰ってきたキャベツは、母が洗って千切りにした。私は横で見ながら食器を準備し、刺身を5つに取り分け、暗くまで外で仕事をしている祖母や父に「ご飯ができたよ」と伝えてまわり、家族で食卓についた。
刺身の醤油が少しだけついたキャベツを食べながら「これが美味しいんだ」とひとり密かに満足していた。
このキャベツも、モンシロチョウの飛ぶあの畑で、祖母の手に包まれてぬくぬく育ったのだろう。
今度、帰省した時にはもう少し畑仕事を手伝わないとな。そう思いながら、今日も食べ終わった後に包丁を研ぐことにした。

庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
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