こんにちは。料理人の庄本彩美です。今回は、わらびにまつわるお話です。
山菜が次々と旬を迎えはじめた。山菜と言えばあく抜きが必要なものが多いが、昔の人たちはこれを美味しく食べるために、一体どれだけの失敗や苦労をしてきたのだろうかと、ふと思うことがある。
「わらび」もそのままでは食べることができず、灰や重曹を使ってあくを抜く必要がある。
初めてこれに挑戦した時は、重曹を入れすぎたようで、どろどろにさせてしまい落ち込んだ。
あの経験で山菜へのハードルが高くなってしまっていたのだが、料理の面白さを知ったのも、またわらびのおかげでもあった。
料理の仕事をはじめてから、お世話になっている野草採りの名人がいる。
京都の料亭から私のような個人まで、多くの料理人がこの名人を頼って新鮮な野草を仕入れるのだ。

わらびの仕入れをお願いしたある日、名人は沢山の野草を車に積んで、アトリエへ来てくれた。
トランクをあけると、たちまち野草の見本市が始まる。
小ぶりだけど苦味がしっかり閉じ込められた蕗の薹、山奥の清流だけを知っている青々としたクレソン、飾りにも使われる満開の山桜など、様々な野草をひとつひとつ説明して見せてくれた。
いろんな野草に惹かれつつ、お目当てのわらびと、ついでにクレソンを買うと「あと、これも」と、もう一つぱんぱんになったビニール袋をどさっと渡された。
袋の中を覗き込むと、それは椿の葉っぱのようだった。
「わらびはな、ヤブツバキの枝葉であく抜きしたらええんやで。葉っぱをわらびの上にしっかり敷いて、熱湯かけて一晩置いといたらええから」
葉っぱであく抜き…?しかも置いておくだけでいいの?と私の頭の中は混乱。
半信半疑になりながらも、名人の言う通りに作ってみることにした。

わらびを洗って下の部分を切り、ヤブツバキの葉をわらびが見えなくなるくらい上に被せた。沸かしたお湯をサーっとかけて一晩待てば、あく抜きは完成とのこと。
ちょっと不安になりながら、次の日の朝おそるおそるつまんでみると、あら、渋みがない。食べられる。粘り気もあって美味しい。
生のままでは食べられないわらびが、ヤブツバキの葉だけで美味しくなるなんて、まあ、なんと魔法のようなことか。
ヤブツバキの葉のゆで汁はアルカリ性で、重曹と同様の役割をするんだそうだ。
あく抜きが成功したことを喜びつつ、植物が持つ力はすごいと驚きながら、わらびはナムルにしたり、炊き込み御飯にしてたっぷり味わった。

今は自分でご飯を作らなくても、食べ物が手に入る時代だ。それにわざわざあく抜きが必要なわらびを食べなくたって、生きていける。
それでも料理をしてみようと思うのはきっと、新しい発見に驚いたり、美味しさに飛び上がったり、旬のものをいただく喜びが、私の生活を豊かにしてくれると知っているからなんだろう。

庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
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