こんにちは、漁師をしている三浦尚子です。今日は鰹(かつお)についてのお話です。
かつおは太平洋、大西洋、インド洋と、世界中の熱帯から温帯水域に広く生息していて、17〜30℃の暖かい海水温が大好きな回遊魚です。水温や水質に敏感で、水温が1℃でも変化したり、水の色が濁ったりすると泳ぐ進路を変えます。冷たい海水が苦手なので、15℃以下の海域に入ることはほぼありません。
日本近海では、黒潮が流れている海域に生息し、季節によって南西諸島から三陸沖あたりまで季節によって回遊場所が変化します。
そして、時速30〜40キロメートルの速さで泳ぐのですが、例えると原付バイクで走る速度と同じくらい。実はかなりの高速スイマーで、人間のスピードでは追いつけないすばやさを持っています。
そんなかつおが日本近海を回遊する主なルートは3つ。
1つは黒潮沿いに南の沿岸から北上するルート、2つ目は和歌山県の南側、亜熱帯反流域から北上するルート、3つ目は小笠原から伊豆諸島付近を北上するルート。それぞれのカツオたちが、大好物のイワシの群れを追いかけて北上していきます。
今の時期は「初かつお」と呼ばれ、赤身の脂の乗りは少なくさっぱりとしていて、身が締まっています。江戸時代には「目には青葉 山ほととぎす 初かつお」という俳句が謳われ、初夏を告げる縁起物として食べられていたそう。
かつおといえば、一本釣り。
消費量日本一を誇る高知県の漁師さんたちは、かつおとともに移動をしながら漁をします。2月頃に高知を出航して、11月〜12月頃に高知に戻るため、約10ヶ月間はかつおを追いかけて漁に出ています。
漁港での水揚げが終わると、すぐに漁の準備をはじめて出航することが多いため、船上での生活が主です。
かつお船は漁をする前にまき餌となる生きたイワシを船に積み込み、船の魚倉に泳がせておきます。一本釣り漁は活きの良いイワシを調達できるかどうかにかかっているそう。
そして、漁場まで船を走らせるのですが、漁場は漁労長の長年培われた経験や、船のレーダーや海鳥探知機などの機械、水温や気象データなどをもとに照らし合わせて決定します。
かつおの群れを見つけると、漁の開始。
餌のイワシを海にまいてかつおを呼び寄せ、「かえし」と呼ばれる針のついていない浅めの釣り針の付いた竿を使って1匹ずつ釣り上げていきます。これは、かつおが食いついた竿を頭上に勢いよく振り上げたときにテグスが緩んでかつおに付いた針が外れるようにするため。
ひとりひとりが竿を使って漁をしていきます。一本釣りでの技術は、熟練になるまでに3年はかかるそう。1匹ずつ釣るのでかつおを傷付けず、無駄な魚を獲らないため自然のことを考えた漁でもあります。
私が住んでいる場所の、県をまたいで隣町に気仙沼があるのですが、夏くらいになると気仙沼漁港にたくさんのかつお船が入港してきて、全国各地のかつお漁師さんたちが集まります。
気仙沼に漁師さんたちが来る頃は「戻りかつお」と呼ばれるようになり、海を北上して運動してきたかつおは脂が乗ってくる時期。
季節によってかつおの状態が変わるのですが、初がつおと戻りかつお、みなさんはどちらがお好きでしょう?
今の時期の初かつおを食べるなら「たたき」がおすすめ。おろしたかつおを串に刺して、じゅわりと表面を炙るのですが、脂が少ない初かつおは表面を焼くことで味がしまるそう。
火で炙ったかつおのたたきは、ごはんを盛った上に乗せて丼モノに。かつおとごはんの量が半分くらいになったら、今度は刻んだ三つ葉とネギも少し入れてお茶漬けにします。かつおのお出汁がごはんに滲んで、すするとほうっとする。
食べ方を変化させて、初かつおの2度おいしい食べ方を楽しんでもらえたらなあと思います。
三浦尚子
漁師・ライター
神奈川県出身、岩手県在住。春が好き。ほっとする暖かさと、生き物が活発に芽吹いていく空気が心地よく感じます。趣味はカメラとおいしいごはんを食べること。夜明け頃の海が好きで、ときどき海の写真を撮っています。
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