オオイヌノフグリ

旬のもの 2020.05.16

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

日当たりのよい道端や草地に生えるオオイヌノフグリは、まるで空のかけらを散りばめたかのようなコバルトブルーの花を咲かせます。オオイヌノフグリの青は、ホトケノザの赤、タンポポやカタバミの黄、ハコベの白とともに、日本の春から初夏にかけての野を鮮やかに彩ります。

オオイヌノフグリの名の由来

オオイヌノフグリはとても可愛らしく、散歩の途中で出会うと思わず笑顔になってしまいます。けれども名前が少しかわいそう。「フグリ」とは、陰嚢(いんのう)の古語ですが、どうしてこんな名前がついてしまったのでしょう。

明治時代、オオイヌノフグリがヨーロッパから入ってきたときに、日本にはすでに「イヌノフグリ」という在来種がありました。イヌノフグリの実は、2つの球体が連結した形になっていて、まさに犬のそれにそっくり。日本の植物分類学の祖・牧野富太郎博士が命名したそうです。急速に全国に普及した外国生まれの近縁種は、在来種より大型でした。そのため、オオイヌノフグリ(大犬の陰嚢)と名づけられてしまったのです。

イヌノフグリ

オオイヌノフグリの実はやや扁平だし先がとがっているので、犬の陰嚢には似ていません。後の植物学者たちが、あまりにも気の毒な名前ということで「天人唐草(てんにんからくさ)」や「瑠璃唐草(るりからくさ)」などへの改名を提案しましたが、普及しませんでした。

元々のイヌノフグリも、ピンク色のかわいい花です。今では絶滅危惧種となり、あまり姿が見かけられなくなりました。俳句の世界では単に「いぬふぐり」と言えば、オオイヌノフグリを指すのが一般的。季語は春です。

犬ふぐり星のまたたく如くなり――いぬふぐり ほしのまたたくごとくなり

俳人として名高い高浜虚子(たかはまきょし)の一句です。オオイヌノフグリの別名は「星の瞳」。春の陽射しの中、冴え冴えとした青い輝きを放つ花は、天上の星が地上にこぼれ落ちたかのようでもあります。英語名はBird's Eye(鳥の目)、あるいはCat's Eye(猫の目)ですが、いずれもそのきらめきを「瞳」に例えたのでしょう。

さてオオイヌノフグリの花は、形がやや異なる4枚の花びらが中心部で1つに合わさった合弁花(ごうべんか)。それぞれの花びらの先からは、白い中心部に向かって青い脈が走っています。これは、ミツバチたちを花の中央にある蜜まで誘導するサインと考えられています。

花言葉は「忠実」「信頼」「清らか」

学名ベロニカ・ペルシカ(Veronica persica)は、ペルシャのベロニカの意。

ベロニカは、十字架を担いでゴルゴダの丘を上るキリストを哀れみ、その汗をぬぐうためにスカーフを捧げた聖女の名前です。スカーフにはキリストの顔がくっきりと写っていたそうな。オオイヌノフグリの白い中心部を見ると、キリストの顔が浮かびあがるということから、この学名がつけられました。花言葉も聖女ベロニカの伝説にちなんで「忠実」「信頼」「清らか」など美しい言葉が並びます。

さて、園芸植物にはオオイヌノフグリによく似た「ネモフィラ」という青い花があります。ムラサキ科のネモフィラは北アメリカ原産。別名もオオイヌノフグリと同じ「瑠璃唐草」です。見分けるポイントは、まず花の大きさ。オオイヌノフグリは5~10mmくらいで、ネモフィラは20㎜~25㎜とやや大きめ。そしてオオイヌノフグリの葉が卵円形なのに対し、ネモフィラの葉は細長く、深い切れ込みがあります。

ネモフィラ

オオイヌノフグリ 大犬の陰嚢
学名Veronica persica
英語名 Bird's Eye, Cat's Eye,Persian speedwellなど
別名「天人唐草」「瑠璃唐草」「星の瞳」。オオバコ科の越年草。ヨーロッパ原産。秋に芽を出し、早春から5~10㎜ほどの花をつけ、夏には枯れてしまう。草丈は10~20㎝。

※ 以前はゴマノハグサ科に分類されていたが、今日ではオオバコ科に編入されている

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に「草の辞典」「七十二候のゆうるり歳時記手帖」。「絶滅生物図誌」では文章を担当。2020年3月に「たんぽぽの秘密」を刊行予定。(すべて雷鳥社刊)

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