こんにちは。俳人の森乃おとです。
シロツメクサはもっとも親しまれている野の草のひとつです。5月の頃、いっせいに群れ咲き、ミツバチたちが蜜を求めて忙しく飛び交います。もしかすると、クローバーという英語名の方がなじみ深いかもしれませんね。
柔らかく敷きつめられた葉の上でお弁当を広げ、花を摘んで冠を編んだり、四つ葉のクローバーを探したりした思い出。初夏の光の中で家族や友人、恋人などと共有した懐かしい「あの日」。シロツメクサが愛されるのは、そんなそれぞれの幸福な記憶と結びついているからでしょう。


シロツメクサはヨーロッパ原産のマメ科の帰化植物です。
和名の由来は1846年(江戸時代末期)、オランダから将軍家にガラス製の花瓶が献上された際、箱の中に乾燥したこの草が詰められていたことによります。器が割れないための詰め物に使われたので「詰草」、さらに花が白いので「白詰草」となりました。
文明開化の明治時代には、牧草として優れているため、近縁種のムラサキツメクサ(アカツメクサ)とともに「ウマゴヤシ」と呼ばれ、盛んに種子が輸入されました。

牛乳を飲むのが流行した明治中期には、東京の中心部だけで100カ所もの牧場が生まれたといいます。シロツメクサが牧場から逃げ出し、全国に広がるのにそう時間はかかりませんでした。
さらに、マメ科の植物の特徴として根にバクテリアが共生し、タンパク質をつくりだすので、レンゲ(ゲンゲ)と同様に良質な緑肥=田畑の肥料ともなりました。そのためオランダゲンゲとも呼ばれます。養蜂家にとっても大事な花で、世界のハチミツの大半はクローバーから作られているそうです。

そんなシロツメクサに深い思い入れを抱いていたのが、農学者でもあった岩手県の詩人・童話作家の宮沢賢治です。童話「ポラーノの広場」では「つめくさの花」が、伝説の祝祭の広場を探すための道しるべとして描かれています。
「おや、つめくさのあかりがついたよ」ファゼーロが叫びました。
なるほど向うの黒い草むらのなかに小さな円いぼんぼりのような白いつめくさの花があっちにもこっちにもならび、そこらはむっとした蜂蜜のかおりでいっぱいでした。
シロツメクサの花は、10~80個の小さな花=小花(しょうか)の集まりです。小花を取り出して観察すると、5枚の花びらがマメ科特有の蝶の形をしています。童話の中で、賢治はそうした花の特徴も丁寧に記しています。

花以上に親しまれているのは、3つの小葉(しょうよう)からなる葉の形です。英名の「クローバー」は「こん棒」という意味で、ヘラクレスが手にしていた3つのコブがあるこん棒の形に由来します。キリスト教では、三つ葉は神・キリスト・聖霊の、三位一体の象徴とされます。学名の「トリフォリウム(Trifolium)」も3つの葉という意味です。
葉が踏まれて傷つけられると、そこから新しい小葉が出て、四つ葉ができることがあります。ヨーロッパでは四つ葉のクローバーは幸運の象徴。身につけると魔除けになり、夢に見れば幸せな結婚を暗示するといわれます。けれど五つ葉のクローバーは逆に不幸をもたらすのだとも。

シロツメクサの花言葉は「私を想ってください」「約束」、そして「復讐」です。強い願いや約束はそれが破られると怖いことになるのかもしれませんね。
四つ葉のクローバーにも花言葉があり、「幸運」「私のものになって」です。
シロツメクサ 白詰草
学名Trifolium repens
英語名 White clover
マメ科シャジクソウ属の多年草。葉はハート形の3枚の小葉からなる。花茎を10~30㎝ほど伸ばし、先端に2㎝ほどの白い花を咲かせる。花期は春から夏。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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