こんにちは、俳人の森乃おとです。
雨豊かに降り、緑美しい6月。今年2020年、暦の上での「入梅」は6月10日ですが、そろそろ梅雨入り宣言の声を聞くころでしょうか。
七十二候では「腐草為蛍(くされたるくさ ほたるとなる)」となり、水辺近くの草むらに蛍が飛び交う季節を迎えます。

今回ご紹介する草花は、その「蛍」の名をいただくホタルブクロ。ホタルブクロはアジサイと並んで、6月を代表する草花です。入梅ごろから咲きはじめ、梅雨が明けるころに花期を終えるため、「雨降花(あめふりばな)」とも呼ばれます。

ホタルを詠んだ文芸作品といえば、平安時代の歌人・和泉式部の和歌が真っ先に思い浮かびます。訪ねてくることが稀になった恋人のことを思い悩んでいると、沢に群れ飛ぶホタルが、自分の身体からさまよい出た魂のような気がする――。なんとも切なくも狂おしい情熱の詩です。

ホタルは古くから、恋心の象徴とされてきました。「こひ」「おもひ」が「ひ(火)」と通じるからでもありますが、何よりもそのあえかな美しい光ゆえでしょう。蛍の命は1週間ほどと短く、草葉に溜まった夜露を少しだけ飲むばかりだといいます。

さて、ホタルの恋の季節は、ホタルブクロの花が咲く季節でもあります。
ホタルブクロはキキョウ科ホタルブクロ属の多年草。日当たりのよい丘陵地や土手、道端などに自生し、草丈は30~80㎝。初夏から夏にかけ、4~5㎝の釣り鐘型の花を数個、うつむき加減に縦一列につけます。
花の色は白または赤紫。白い花には、赤紫の斑点が見られます。花は筒状に合わさり、先端が5つに分かれています。

ホタルブクロは「蛍袋」、あるいは「火垂る袋」。その和名の由来は昔、子どもたちがこの花の中にホタルを閉じ込め、家に持ち帰ったからとされています。
野澤節子の俳句に、
おさなくて 蛍袋の中に栖(す)む
という作品がありますが、子どもたちのそんな遊びからの連想かもしれません。
もっとも最近では、「火垂る袋」はもともと提灯(ちょうちん)の古語で、花の形が提灯に似ているため名づけられたという説が有力になっています。別名に「提灯花(ちょうちんばな)」「釣鐘草(つりがねそう)」もあります。
ホタルブクロ属の仲間は園芸種としても人気がありますが、なかでもセイヨウホタルブクロ=カンパニュラは、教会や英国式ガーデンには欠かせない草花のひとつです。

学名Campanula(カンパニュラ)は、ラテン語で「小さな鐘」の意味ですが、カンパニュラの濃い青紫色の花は、やや短く上を向いていて、いっそう教会の鐘を思わせます。英語名はそのままbell flower(ベルフラワー)です。
ところで北原白秋は、歌集『桐の花』(大正2年)の巻頭文で、
西洋料理店(レストラント)の白いテエブルクロスの上にも紫の釣鐘草と苦い珈琲(コーヒー)の時季が来る。
と書いています。この「釣鐘草」は、大正ロマンの西洋料理店にふさわしく、カンパニュラでしょう。
ホタルブクロの花言葉は「忠実」「誠実」「正義」「貞節」。佇まいこそ繊細でたおやかではありますが、ジャガイモなどと同じように、地下茎でグングンと殖えてゆくたくましい山野草。食べても美味しく、若葉や若芽は天ぷらや和え物、おひたしに。花は酢の物にしたり、サラダに入れたりすると、彩りも味も贅沢に楽しめます。

ホタルブクロ 蛍袋、火垂る袋
学名Campanula punctate
英語名 Spotted bellflower
キキョウ科ホタルブクロ属の多年草。学名punctate(プンクタータ)は「小さな斑点のある」の意。立ち上がった花茎から釣鐘状の花を2~5輪ほど咲かす。花期は6~8月。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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