こんにちは、俳人の森乃おとです。
6月に入ると、空き地や道端にツユクサ(露草)の花が咲きはじめます。花の色は、明度が高い薄青色。この、生まれたばかりの空のような色は、「縹(はなだ)色」とも呼ばれます。露に濡れたすらりとした葉もみずみずしく、夏の朝の美しさを彩ります。
ツユクサはツユクサ科ツユクサ属の一年草で、日本各地に分布。名前の由来は、朝露のようにはかなく、昼過ぎには萎れてしまうためといわれます。

ツユクサやアサガオのように、一日で終わる花を「一日花(いちにちばな)」と呼びます。ツユクサの英語名は、そのまま〝dayflower〟です。
ツユクサは不思議がいっぱい
ツユクサはありふれた雑草ですが、実は不思議がいっぱい。
数個の花は、阿波踊りの菅笠(すげがさ)に似た半円形の総苞(そうほう)に保護されています。そのため、ツユクサの花の形や花弁の枚数をすぐに言える人は、そう多くはありません。
ツユクサの花は、白い萼片(がくへん)が3枚、花弁が3枚です。色がついているのは上の2枚の花弁だけ。下の1枚は小さくて半透明なので、2弁の花のように見えます。
雄しべは6本ありますが、形は3種類。ゾウの牙のように下から長く突き出した2本と、真ん中のやや長い1本が、受粉に使われる花粉をつけます。

上の短い3本は、見た目は黄色く派手ですが、花粉は空っぽ。受粉を手伝ってくれる昆虫への贈り物になります。
さらに、雄しべだけの「雄花」と、雄しべと雌しべがそろった「両性花」の2種を持っています。両性花は自家受粉でも他家受粉でも種をつけます。
ツユクサが曲者なのは、その繁殖戦略の多様さ。地中にも自家受粉する「閉鎖花(へいさか)」があり、地下茎でも増えます。
茎は直立せずに、稲妻のように屈曲して広がりますが、節が地面に触れると、そこから根が出て、新しい株になります。

俳人・松本たかしの次の2句は、ツユクサのこうした特徴をよく観察しています。
ちなみに「蛍草」は、花の形から生まれた別名です。
月草に衣は摺(す)らむ朝露に濡れての後はうつろひぬとも
(詠み人知らず 万葉集 巻七)
ツユクサにはたくさんの別名がありますが、一番有名なのはツキクサ。衣服や和紙に花をすりつけて、青色の染料に使ったので「着き草」と呼ばれ、万葉集では「月草」と表記されました。すぐに退色するので、移ろいやすい人の心を象徴しています。

この歌の意味は
作者はおそらく女性でしょう。恋する気持ちを詠んだ哀しくも力強い歌です。
染料としては、今でも大型の変種のオオボウシバナが、友禅染の下絵を描くために使われています。ボウシバナ(帽子花)も、笠のような総苞の形から生まれたツユクサの別名です。
花言葉は「尊敬」「なつかしい関係」
ツユクサの学名はⅭommelina commnisコメリナ・コムニスです。意味は「普通のツユクサ属」。
コメリナという属名は、17世紀オランダの植物学者ヤン・コメリンに由来します。
甥のカスパル・コメリンも植物学者で、伯父が手掛けたアムステルダム植物園の植物目録を完成させました。コメリン家にはもう一人植物学者がいましたが、若くして亡くなったため、無名に終わったそうです。
ツユクサの花の美しい2枚の花弁と、半透明の目立たない1枚の花弁。花の構図とコメリン家の3人の植物学者の関係が似ているので、学名に選ばれたという伝説があります。
花言葉もその言い伝えにちなみ、「尊敬」「なつかしい関係」です。

ツユクサ 露草
学名 Commelina communis
英語名 dayflower
ツユクサ科ツユクサ属の一年草。草丈20~50㎝。茎はよく分岐し、上部は斜上する。総苞に包まれた花を数個ずつ咲かせる。花期は6~9月。別名月草、蛍草、帽子花など。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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