枝豆えだまめ

旬のもの 2020.07.16

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こんにちは。料理人の庄本彩美です。
今日は、世界でも「edamame」の名で愛される「枝豆」についてのお話です。

「食べ物で遊んじゃだめよ」
子どもの頃、度々そう言われたが、野菜には面白い食べ方のものがある。
枝豆もそのひとつだ。

枝豆の定番といえば「塩茹で」だろう。その食べ方は、結構独特だと私は思う。
指でギュッと押すと、にゅんっと鞘から黄緑色の豆が出てきて、それを口でパクッと受け止める。まるで「食べる」と「遊ぶ」が混じったような食べ方。
それが楽しくて、子どもの私は夢中でぱくぱく食べた。いかに鞘を割らずに端から豆を出せるか、自分ルールを作って食べたり、同じ皿に戻した空の枝豆を手に取ってしまって、ハズレくじを引いた気分になったり。
枝豆を食べることは、私にとって夏の小さなお遊びだった。

「枝豆は、大豆になる前のものなんよ」と祖母は教えてくれた。
今は枝豆用の品種を買って栽培しているが、昔うちでは大豆の1割程度を枝豆として収穫していたそうだ。
味噌や納豆、豆腐など形を多様に変え、日本の食卓には欠かせない大豆が、枝豆としても楽しませてくれていると思うと、大豆の偉大さを感じずにはいられない。

ちなみに大豆は豆類だが、枝豆は野菜類に分類されるそうだ。
枝豆は十分に熟していないぶん、野菜に含まれる栄養素であるビタミンAやビタミンC、カロチンなどが豊富に含まれている。さらに、大豆に含まれるタンパク質も豊富にあるという。
枝豆は、野菜の栄養素だけでなく大豆の栄養素も同時にとれる優秀な存在ということだ。

美味しくて栄養もあり、食べ方まで面白い枝豆。
その食べ方は、昔から愛されていたようだ。

枝豆は、奈良あるいは平安時代には食べられていたといわれている。江戸時代には夏になると、枝つきのまま湯がいたものを「枝豆売り」なる者が売っていたという。
当時はその状態で食べ歩いていたことから、ファーストフードのような存在だったらしい。

「枝についた豆」だから「枝豆」という名前の由来にもなっているそう。
売り方まで面白いなんて、枝豆は夏のエンターテイナーなのか、はたまた人間が枝豆を好きすぎるのか…。

枝豆の名前には「夏の声」「夏の語らい」「盆踊り」など夏らしい名前が付く品種のものもある。
ここまで枝豆が愛されるのは、その味、お手軽さに並び、その独特な食べ方から、夏や楽しい思い出が思い起こされるからではないだろうか。
きっと江戸の昔の人の花火観賞やお盆の家族団らんの側には、枝豆があったのだろう。

食事は、ただ栄養を取るだけではなく、食材たちから季節や懐かしい記憶に浸ることができるのも、魅力のひとつだと思う。
今年は夏ならではのイベントが少ないのがちょっと寂しいが、こんな時こそ枝豆を湯がいて、ぱくっと口に頬張り、家庭で夏の風情を楽しむのはどうだろうか。

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庄本彩美

料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。

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